みなさん、こんにちは。
2025年12月3日に福岡国際会議場で開催された「福岡市介護DX展示会」に参加してきました。
会場には、介護現場の課題解決を狙う最新のIT・IoT製品が所狭しと並んでおり、熱気にあふれていました。特に印象的だったのは、展示全体のおよそ4割を占めていた「見守りソリューション」の多さです。
しかし、会場を回り数々の製品に触れる中で、私の中にひとつの大きな疑問が浮かび上がりました。
「見守りシステムはこれほど増えているのに、本当に価値あるDXはどこにあるのか?」
今回は、展示会で見えてきた見守りソリューションの現在地と限界、そしてこれからの介護DXに求められる「真の価値設計」について、現地の様子を交えてレポートします。
加速する「見守り市場」の現在地
展示会場では、多くの企業がセンサー、カメラ、クラウド技術を組み合わせた見守りシステムを展示していました。まさに百花繚乱の様相ですが、整理すると主に以下の4つのパターンに分類できます。
| タイプ | 特徴 | 導入イメージ |
| ① シルエット型 | プライバシーに配慮し、人の姿をシルエットで検知。「離床・動作」の把握が中心。 | 買い切り数十万円〜 端末内に短時間保存 |
| ② ハイブリッド型 | 離床マット等のセンサーとカメラを併用。立ち上がり検知時に映像確認が可能。 | 十数万円〜数十万円 クラウド+オンプレ保存 |
| ③ 完全オンプレ型 | 施設内サーバーで一元管理。外部ネットワーク遮断が可能でセキュリティ重視。 | 数十万円〜 閉域網運用 |
| ④ ネットワークカメラ型 | 遠隔閲覧が可能で比較的安価。管理画面はメーカー標準のものが多い。 | 数万円〜 レコーダー併用 |
機能やコスト構造はさまざまですが、どのソリューションも提供する価値(セールスポイント)は共通しています。それは、「遠隔で見守れるので、巡視・巡回の負担を減らせます」 という点です。
確かに、物理的な移動を減らすことは大切です。しかし、果たしてDXに求められるゴールはそれだけで良いのでしょうか?
「巡視・巡回削減」で止まってはいけない
展示を見ていて強く感じたのは、多くの企業が 「導入後の業務導線」 を十分に語れていない という点です。
- 導入後、具体的に誰がどう運用するのか?
- 得られた情報はどのように記録・活用されるのか?
- それによって、ケアの質はどう改善されるのか?
ここ踏み込めているケースは非常に稀(というか、私が聞いた限り皆無)でした。「DX=遠隔監視による効率化」と捉えてしまっていることが、現在の見守りシステム乱立の背景にある根本的な課題ではないでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは本来、デジタル技術を用いて「現場の価値そのものを変革する」取り組みであるはずです。
本当に必要なDXは「価値の設計」にある
介護現場が求めているのは、「ただ事故を減らす」「ただ見る」以上の価値です。
例えば、以下のような方向性が提示されて初めて「本質的なDX」と言えるでしょう。
- 生活リズムの分析: データを蓄積し、ケアプランの改善に直結させる
- 予兆の検知: 骨格推定や行動解析から「転倒しそうな兆候」を事前に予測する
- 非言語的変化の通知: 「いつもと違う」様子をシステムが気づき、職員に知らせる
- メンタルケアへの寄与: 夜勤者の精神的なプレッシャーを軽減する仕組みを作る
つまり、「ただ見る」システムから、「理解し、寄り添い、変化を提示する」システムへ。これこそが、今求められている進化です。
介護DXの本質は「現場のUX」
今回の展示会では、九州工業大学の井上創造教授による講演も行われました。その中で語られた言葉が、非常に示唆に富んでいました。
UX(体験)≠ UI(画面)
介護現場の業務は、非定形であり、対人であり、非言語的要素が多く含まれます。そもそも介助で手が塞がっていることが多いため、「画面操作」を前提としたDXは現場に馴染みません。
これからのDXは、「触らなくても動く」「現場の空気を読む」「スタッフに寄り添う」 という方向へ進むべきなのです。
今後10年のロードマップ – AIとの共働
井上教授は、今後の介護DX(特にAI活用)のロードマップとして以下の3段階を示されました。
- フェーズ1:行動認識
- 骨格検出や離床検知により、転倒予防や行動理解を行う段階(現在はこの入口)。
- フェーズ2:関係性を理解するAI
- 利用者ごとの特性を把握し、対話しながらケア品質を支える段階。
- フェーズ3:チームAI
- AIが多職種連携の一員として、「同僚」のように参加する段階。
この視点で見ると、現在の見守りシステムの多くは、まだまだ入り口に立ったばかりであることが分かります。
まとめ – 見守りシステム乱立は「過渡期のサイン」
今回の展示会を通じて見えた結論はシンプルです。
- 見守りシステムは急増しているが、多くは「効率化」に留まっている。
- 本当に必要なのは、データ活用や予測による 「新しい価値の創造」。
- 画面の使いやすさだけでなく、「現場のUX」 まで設計できる企業が生き残る。
介護DXはまだ始まったばかりです。
「なぜその機能が必要なのか?」「それによって現場はどう変わるのか?」「今までできなかった何ができるようになるのか?」
これらを語れる企業、そして設計できる人材こそが、これからの介護DXをリードしていく存在になるでしょう。私もその未来に向かって、引き続き邁進していきたいと思います。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、よい介護DXを!



