みなさん、こんにちは。
アクセシビリティという言葉を聞いたことがありますか?これは、障害のある方がPCやスマートフォンを使いやすくするための工夫や技術全般を指します。具体的には、画面を読み上げるスクリーンリーダーや、キーボード操作を補助するスイッチ入力ツールなどがあります。
しかし、これらの従来の技術は、大きな課題を抱えていました。今回は、その課題を乗り越える「ターミナル型AI」の可能性について、特にユーザー数の多いWindows環境に焦点を当てて解説します。
従来のPCアクセシビリティが抱える深刻な課題
これまで、Windows PCにおける障害者支援の機能は、主にOS標準の機能に依存していましたが、特に日本語環境での複雑なPC操作において、以下のような深刻な制約に直面してきました。
1. 複雑なコマンド実行機能の欠如
従来のWindows音声認識は、音声をテキストに変換する能力(ASR)自体は優秀です。しかし、「この表を整形してグラフを作り、PDFにしてメール送信して」といった複合的で複雑なタスクを、一つの自然な指示で自動実行できるコマンド実行機能がシステムに組み込まれていませんでした。
2. GUI操作機能の日本語未対応
Windows 11で登場した「音声アクセス」は、GUI要素の操作を可能にする画期的な機能ですが、2025年10月現在、日本語でのコマンド操作には未対応です。この「コマンド実行」の制約こそが、日本国内のWindowsユーザーが、OS標準機能だけでは業務レベルの複雑なPC操作を自然な音声で行えないという致命的な問題となっていました。
3. 操作の柔軟性の低さ
従来のシステムは、PCが認識できる厳密な言い回しを要求するため、ユーザーは自然な表現の揺れや曖昧さを許容されず、常に機械的なコマンドを選択する必要があり、これが大きなストレスとなっていました。
ターミナル型AIの登場 – 制約を打ち破るブレイクスルー
これらのWindows標準機能が抱える課題を一挙に解決する可能性を秘めているのが、ターミナル型AIと音声認識技術の組み合わせです。ターミナル型AIは、従来のアクセシビリティ機能の「穴埋め」ではなく、「中心的な役割」を担う存在になりつつあります。
ターミナル型AIとは
ターミナル型AIは、ユーザーが自然言語で入力した目的を深く理解し、その実現に必要なコマンドやスクリプトをローカル環境で生成・実行できるAIです。
- 代表例: Gemini CLI、GitHub Copilot CLI、Claude Codeなど。
ターミナル型AIはもともとプログラム開発者支援のためのツールとして開発されましたが、その最大の強みは、「どうしたいか(目的)」を伝えれば、AIが目的達成のための手順(スクリプト)を自動生成し、実行できる点にあります。
簡単な例をあげると、「メモ帳を開いて」と指示をすると、AIがメモ帳のプログラムを実行し、ウィンドウを開いてくれます。これにより、ユーザーは専門知識や厳密なコマンドを覚えることなく、PCを自由に操作できるようになるのです。
ターミナル型AIは各社から発表されており、その性能は甲乙つけがたいものがあります。私がおすすめするのは、Googleアカウントがあれば無料で利用を始めることができるGemini CLIです。
ターミナル型AIの導入(WindowsにGemini CLIをインストール)
Windows環境でGemini CLIを手軽に導入するには、Windowsのパッケージ管理ツールWinget(ウィンゲット)を使うのが最も簡単です。
0. Node.jsのインストール
Gemini CLIはNode.jsで動作するため、事前にNode.jsをインストールしておく必要があります。Wingetを使えば簡単です。
- PowerShellまたはコマンドプロンプトを起動します。
- 以下のコマンドを入力し、実行します。
winget install OpenJS.Nodejs
- インストールが完了したら、ターミナルを再起動するか、
node -v
と入力してバージョン情報が表示されるか確認してください。
1. Wingetを使ったGemini CLIのインストール
- 同様にPowerShellまたはコマンドプロンプトを起動します。
- 以下のコマンドを入力し、実行します。
winget install Google.GeminiCLI
- インストールが完了するまで待ちます。
2. Gemini CLIの起動と認証
- インストール後、PowerShellまたはコマンドプロンプトで以下のコマンドを入力し、Gemini CLIを起動します。
gemini
- 初めて起動すると、認証方法の選択肢が表示されます。Googleアカウントで認証するを選択するとブラウザが開き認証画面が表示されますのでご自身のGoogleアカウントでログインしてください。
- 認証が完了すると、「Type your message or @path/to/file」と表示され、Gemini CLIがコマンド入力待ちとなります。ここに、自然言語で指示を入力してエンターキーを押せば、PC操作をAIに委ねることが可能になります。

Windows標準の音声入力機能の活用
Gemini CLIには自然言語で指示を与える必要があります。キーボードの代わりに音声で入力したい人のために、Windowsには「Windows標準の音声入力機能」が用意されています。この機能は、ユーザーの音声をテキスト化するという基本的な役割を担い、もちろん日本語にも対応しています。
Windows標準の音声入力機能の有効化手順
Windows 10/11で音声認識によるテキスト入力を有効にする手順は非常に簡単です。
- マイクの接続と確認
- マイクがPCに正しく接続され、認識されているかを確認します。
- 音声入力機能の起動
- キーボードの Windows + H を同時に押します。
- 入力開始
- 画面にマイクアイコンが表示されたら、話しかけることで、音声をテキストに変換し、カーソルのある場所に自動入力できます。

この機能でテキスト化された指示をGemini CLIに直接入力して実行することで、ユーザーの意図をくみ取ってAIがPC作業を代行することが可能になります。
なお、この流れは他のターミナル型AIのCLI(Command Line Interface)でも同じです。
ターミナル型AIが切り拓く3つの革命的応用
ターミナル型AIと音声認識を連携すると、従来のWindows標準機能の制約を克服する、以下の3つの革命的な応用が可能になります。
1. 複雑なタスクの自動化と一括実行
ターミナル型AIは、ユーザーの「目的」(例:データ処理、ファイル変換)を理解し、そのために必要な複数のステップを自動で処理します。複合的な業務レベルのタスクを、単一の自然言語の指示で完了させることは、従来のWindows音声認識では絶対に到達できなかった領域です。
2. 自然言語による柔軟なPC操作
従来の厳密なコマンドではなく、日常会話に近い自由な表現でPCを操作できます。AIの意図解釈能力の高さにより、表現が多少揺れても、AIがユーザーの真の意図を汲み取り、適切なコマンドを生成・実行します。
3. 間接的なGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)操作
OS標準の「音声アクセス」が日本語のGUI操作に対応していない現状に対し、ターミナル型AIは、外部ツール(PowerShell、AutoHotkeyなど)を操作するためのスクリプトを生成し、実行することでGUI操作を代行できます。
例: Windows標準の音声認識では困難な「Chromeを開いて検索欄に『福岡 天気』と入力してEnterを押して」という指示に対しても、AIは意図を解釈し、対応するスクリプトを生成・実行することで、実質的なGUI操作を間接的に実現します。
実運用における安全性と配慮
ターミナル型AIの活用においては、セキュリティと運用上の配慮が不可欠です。
運用上のポイント | 安全性への配慮 |
管理者権限の分離 | 音量設定やネットワーク設定など、管理者権限が必要な操作は、AIが直接実行できないようになっています。かわりにコマンド例を提示し、ユーザーが手動で管理者権限付きのターミナルに貼り付けて実行することで、誤作動や危険な操作を防止します。 |
プログラムの配置 | 日常的に操作が必要なプログラムはユーザーフォルダにインストールしておく必要があります。C:\Program Filesなどのフォルダは実行に管理者権限が必要になり、AIから操作できません。 |
この分離により、アクセシビリティ用途としての柔軟性を確保しつつ、Windows環境でのセキュリティ上の重要な制約を維持できます。
メリットと今後の課題
メリット (ユーザー中心のUX) | 課題 (普及に向けた障壁) |
自然言語で操作可能:専門的な知識が不要 | ネット接続が前提:多くのAIはクラウド連携が必要。 |
複雑な作業も一括処理:業務レベルの操作が可能 | 制度的保証が未整備:OS標準機能のような法的裏付けはまだない。 |
OS依存が少ない共通UX:Windows/Mac/Linuxを問わず操作可能 | コストの壁:クラウド連携は無料枠が少なく有料となる場合がほとんど。オフラインでAI環境を構築するには高価格な高性能マシンが求められる。 |
表現の揺れを汲み取る柔軟性:ストレスのない発話が可能 | GUI操作は間接的:完全な自動化には外部ツールとスクリプト生成の工夫が必要。 |
未来への展望 – AIが変えるアクセシビリティの概念
「AIに任せるアクセシビリティ」はまだ黎明期ですが、Windows標準機能の日本語における制約を考えると、環境的にはすでにターミナル型AIが中心になる準備が整っています。
OSの壁を超える共通のアクセシビリティ体験
特に重要なのは、ターミナル型AIがWindows専用の技術ではないという点です。Gemini CLIやGitHub Copilot CLIなどのターミナル型AIは、Windowsだけでなく、macOSやLinuxなどのOSでも動作します。
これは、従来のアクセシビリティ機能のようにOSごとに機能や言語の対応状況が異なるという問題がなく、どのOSを使ってもユーザーの操作意図をくみ取れる共通のUX(ユーザー体験)を実現できることを意味します。この「OSの壁の解消」は、障害のある方がより自由にプラットフォームを選択できる未来を切り拓きます。
今後は、AIを主役とし、OS標準機能をバックアップとする二層構造、安全制御のためのホワイトリストや確認ステップ、そしてユーザーごとにカスタマイズ可能な音声コマンド体系が整備されていくでしょう。
ターミナル型AIと音声入力の進化は、障害のある方がより自由に、より自然に、より高度にPCを操作できる未来を現実のものにします。この革新的な分野は、アクセシビリティの概念そのものを大きく変える可能性を秘めています。
もしターミナル型AIのアクセシビリティ活用にご興味がありましたら、ぜひご相談ください。一緒に未来を切り拓いていきましょう。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よいアクセシビリティを!