CareTEX福岡2025に行って感じたこと – 本当に必要なのは誰のための「介護」?

みなさん、こんにちは。

先日、福岡市のマリンメッセ福岡で開催されたCareTEX福岡2025に足を運びました。

CareTEXは介護業界の商談型展示会です。介護用品・設備・システム・食事などを提供する介護関連サプライヤー(出展社)と、高齢者施設を中心とした介護事業者(来場者)に、BtoBマッチングの場を提供しています。最新のテクノロジーを駆使した機器や、効率化されたサービスが所狭しと並び、その進化には目を見張るものがありました。

しかし、会場を巡るうちに、ある強い疑問が心の中に湧き上がってきたのです。

「これらは、介護される側の視点に立って作られているのだろうか?」

BtoBマッチングの場の提供という目的から考えると仕方がないことなのかもしれませんが、展示されている多くの製品やサービスは、介護者の負担軽減、介護事業者の業務効率化、あるいは安全管理の強化に主眼が置かれています。例えば、離床センサー、移動を補助するロボット、介護記録を自動化するシステムなど、どれも素晴らしい技術です。介護現場の過酷さを思えば、これらの進化は本当にありがたいものだと思います。

しかし、本来、介護では介護される側の満足度が一番重視されるべきもののはずです。決して介護者側の効率や生産性が一番の目的ではないはずです。

 


 

「介護される側」としての違和感

 

私自身、もし介護される立場になったとしたら、これらの機器を「使いたい」と心から思えるだろうか?そう考えたとき、正直なところ違和感が残りました。

多くの見守りシステムは、プライバシーに配慮しているとは言いつつも、本質的には「監視」の延長線上にあります。もちろん、命を守るためには必要な機能です。しかし、もし私が認知症を患い、記憶に課題を抱えたとしたら、本当に欲しいのは、見守られることよりも、「自分の力で生活し続けるための手助け」なのではないか、と思うのです。

私が求めているのは、忘れてしまったことを思い出させてくれる、あるいは、自分でやりたいことをサポートしてくれるようなシステムです。それは、きっと、楽しいと感じたり、安心できたりする機能が主で、介護者への通知機能はあくまで「補助的」であるべきです。

 


 

自立支援の核心 – 「本人が使いたい」が最優先

 

これまでの介護機器・サービス開発は、「介護」という言葉が示す通り、介護する側からの視点が中心でした。しかし、本来目指すべきは「自立支援」ではないでしょうか。高齢者や、何らかのサポートを必要とする人々が、できる限り自分の力で生活し、人生を謳歌できるよう支援する。そのためにテクノロジーがあるべきだと強く感じるのです。

私が考える理想のシステムは、例えばこんなイメージです。

  • 記憶障害を抱える人でも「使いたい」と思える記憶支援システム
    • スマートスピーカーのように、気軽に話しかけることで、忘れかけている家族の名前や、今日の予定、服薬の時間などを優しく教えてくれる。
    • 過去の思い出の写真や動画を、本人の声で再生し、楽しかった日々を一緒に振り返る。
    • こうした「本人が自発的に関わりたくなる」機能が主役となり、もし本人が困っている様子が見られたり、危険な兆候があったりした場合にのみ、補助的に介護者へ通知が飛ぶ。

これは、まさに以前記事にした「記憶障害の記憶支援が主機能で、必要な場合に介護者へ通知が飛ぶ、アバターメモリーエイドシステム」そのものです。

 


 

自立支援システムがもたらす医療・介護の質の向上

 

この「本人が使いたい」と思える自立支援システムが継続的に利用されることで、介護事業者や医療従事者への情報共有が劇的に改善すると考えます。

既存の監視型見守りシステムは、多くの場合、異常発生時の警報や、日中の活動量といった断片的な情報を提供するに過ぎません。しかし、もし利用者が積極的に活用する自立支援システムであれば、そこには本人の意思や生活習慣が反映された、より高密度な情報が蓄積されます。

例えば、記憶支援システムであれば、本人が何をどのくらいの頻度で確認しているか、どのような情報に興味を持っているか、特定の記憶に関してどのような反応を示すか、といった詳細なデータが得られます。これらのデータは、本人の認知機能の変化や精神状態の微妙な変化を示す貴重な手がかりとなり得ます。

こうした情報が、本人の意思、もしくは家族の意思によって必要なタイミングで介護事業者や医療従事者と共有されることで、以下のようなメリットが生まれるはずです。

  • 個別ケアの質の向上
    • 利用者一人ひとりの記憶の状態、興味関心、生活リズムに合わせた、よりパーソナライズされたケアプランの作成が可能になります。
  • 早期発見・早期介入
    • 認知機能の緩やかな低下や、精神的な変化の兆候を早期に捉え、適切な医療的介入やケアの見直しに繋げられます。
  • 多職種連携の強化
    • 介護職、看護師、医師、リハビリ専門職など、多岐にわたる専門職が、より具体的な情報に基づいて連携し、質の高いチームケアを提供できます。
  • 利用者と家族の安心感
    • 自身が使いたいと思えるシステムを通じて、必要な時に必要な情報が関係者に届くことで、利用者本人も家族も、より安心して生活できるようになります。

 


 

「監視」から「協働」へ – トータルな質の向上を目指して

 

CareTEX福岡2025を訪れて改めて感じたのは、介護業界の技術革新が著しい一方で、その視点の中心がどこにあるのかを問い直す時期に来ているということです。

単なる「監視」ではない、「本人が積極的に使うことで生活の質が高まり、その結果として必要なサポートが適切に行き届く」自立支援システムは、既存の監視型見守りシステムよりも、トータルで見て医療・介護の質を格段に向上させる可能性を秘めていると私は考えます。

私たちは皆、いつか介護される立場になる可能性があります。その時、「これなら使いたい」「これがあればもっと自分らしく生きられる」と思えるような機器やサービスが増えることを心から願っています。

未来の介護機器・サービスは、介護者の負担を減らすだけでなく、介護される人の尊厳を守り、自立を促し、そして何よりも「使いたい」と思わせる魅力を備えているべきです。そんな視点からのイノベーションが、今、最も求められているのではないでしょうか。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは、よい未来の介護を!

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