みなさん、こんにちは。
先日、西日本新聞社主催の「九州DXカンファレンス2025」に参加してきました。地元九州の有力企業をはじめ、コンサル、大学、自治体が一堂に会し、DXのリアルな現場が語られた非常に密度の濃いイベントでした。
多くの登壇者の話を聞く中で、私の頭の中で共通して響いていた一つの「答え」があります。
DXは技術の話ではなく、「目的」の話だ。
最新技術を使うかどうかは本質ではありません。「何を変えたいのか」「誰にどんな価値を届けたいのか」。そこが明確になって初めて、技術は意味を持ちます。
今回は、カンファレンスで語られた事例を振り返りつつ、「DXで迷走しないための本質的な視点」をお話します。
1. 地元企業のDX最前線 – 成功の鍵は「意思決定」と「小さく始めること」
基調講演Iでは、九州を代表する企業のリアルな苦悩と成功体験が語られました。共通していたのは、教科書通りの全体最適ではなく、泥臭い「現実解」を選んでいる点です。
正興ITソリューション – DXの原点は「社内変革」
同社の事例は、まさに「自社DXからの水平展開」という王道パターンでした。
- 取り組み
- 社内向けの健康管理アプリを開発し、歩数データにインセンティブを付与。
- 展開
- 社内での成功実績を元に、外販アプリとしてビジネス化。
ここで重要だったのは、「最初は社内の大半が乗り気ではなかった」という点です。それでも変革が進んだ理由は、トップの意思決定でした。 DXとは、単なるツール導入ではなく「社内を動かすための意思決定プロセスそのもの」であるという事実は、多くの企業にとって勇気となるはずです。
ミスターマックス – 全体最適より「まずは部分最適」
小売業のDXで最大の壁となるのが「現場(店舗)オペレーションの不統一」です。ミスターマックス社が選んだのは、いきなり全店舗を変えることではなく、「経理財務部門」という着手しやすい領域から始めることでした。
- 本業(店舗運営)に影響が少ない領域から始める
- 小さく成功体験をつくり、徐々に横展開する
「全体最適」という言葉に縛られず、まずは確実に勝てる場所で勝つ。この「順番」こそが、DXを頓挫させないための現実的な知恵だと言えます。
2. SAP導入事例から考える「標準化」の光と影
NTTデータ社によるセッションでは、基幹系DXの潮流として「SAP ERP」の導入事例が紹介されました。ここで強調されたキーワードが「Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる)」です。
- 要件定義はしない
- カスタマイズは最小限
- 不足機能は周辺ソリューションで補う
これは効率と再現性を高める強力な手法です。しかし、同時に私はある種のリスクも感じました。それは、「標準化によって、企業固有の強みが消えてしまわないか?」という懸念です。
企業文化や現場独自の知恵、長年培ったオペレーション。これらは非効率に見えても、その企業の競争力の源泉(強み)である場合があります。 DXの真の目的は「強みを伸ばすためにデジタルを使う」ことであり、デジタルに合わせて強みを消すことではありません。「整理」と「破壊」を混同しない慎重さが必要だと感じました。
3. 人材育成と技術選定 – 「体験」を変える視点
データから「知恵」へ
九州工業大学の安永先生の講演では、DXの人材育成における定義が非常にクリアでした。
DXとは、「データ → 情報 → 知識 → 知恵」の流れで体験を変えること
今の学生(デジタルネイティブ)と現場世代には大きな知識ギャップがあります。しかし、ツールを使えるだけでは意味がありません。 重要なのは、問題をデータから見抜き、解決策を構想する「目的を描く力」です。
技術の罠 – 「高機能」=「最適解」ではない
特別講演では、VR/AR技術を用いた現場作業ガイドの事例が紹介されました。技術的には素晴らしいものでしたが、実務への適用を考えた時、ふと疑問が浮かびました。
「それ、本当にVR/ARである必要がありますか?」
もし現場の教育やナレッジ共有が目的であれば、もっと安価で確実な方法があります。
- ウェアラブルカメラで作業者の視点を録画
- 動画をクラウドに蓄積し、AIでタグ付け
- LLM(大規模言語モデル)と連携し、質問すれば該当動画が即座に出る仕組みを作る
これならVR/ARのような莫大な開発コストは不要で、現場の「実態データ」も蓄積されます。 「技術がすごいこと」と「業務に効くこと」はイコールではありません。ここを見誤ると、DXはコストばかりかかるお荷物プロジェクトになってしまいます。
まとめ – DXは「目的」を見失った瞬間に迷走する
今回のカンファレンスを通じて改めて確信したのは、以下の4点です。
- 目的の明確化
- 成功する企業は「技術」ではなく「何を変えたいか」から始めている。
- 現実的なステップ
- いきなり全体を目指さず、小さく始めて成功体験を重ねている。
- 標準化の是非
- ツールの標準に合わせることで、自社の強みを殺さないよう注意する。
- 適正技術の選定
- VRやAIという言葉に踊らされず、ROI(費用対効果)に見合うシンプルな解決策を探る。
世の中では「AI」「クラウド」「AR/VR」といったバズワードが先行しがちです。しかし、技術はあくまで目的を実現するための「手段」に過ぎません。
「何を変えたいのか」 「どんな体験を生みたいのか」
この問いへの答えを持たないまま進めるDXは、どれだけ高価な技術を使っても前に進むことはありません。
もし今、DXプロジェクトで迷いを感じているなら、一度立ち止まって「目的」を再定義してみてはいかがでしょうか。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よいDXライフを!



