みなさん、こんにちは。
先日、福岡県ものづくり中小企業推進会議が主催する「ものづくりシンポジウム2025」に参加してきました。
そこで、福岡土産の定番「めんべい」を製造・販売する株式会社山口油屋福太郎の樋口社長による「めんべい誕生秘話」を拝聴する機会がありました。
ご存知の方も多いと思いますが、念のために説明すると、「めんべい」とは明太子風味のせんべいで、今や福岡を代表するお土産のひとつです。
気づけば九州土産の「定番のひとつ」になっているこの商品ですが、いかにして全国区に近いブランドへと育っていったのか。そのプロセスは、私の専門であるIoTシステムの事業化とは無縁に見えて、実は「地方スタートアップ」が成長するためのヒントに溢れていました。
今回は、講演を聞いて私が感じた「地方企業がブランドを作るための戦略」を、私なりの解釈として共有したいと思います。
1. 事業の多角化という「生き残り戦略」
山口油屋福太郎は、その名の通り1909年に「油屋」として創業しました。そこから食材卸、辛子明太子、めんべい、さらには温浴施設やレストランへと、時代に合わせて事業の柱を次々と変え、拡大してきた企業です。
この歴史を聞いて感じたのは、「地方企業ほど、“次の柱”を先回りして作らないと生き残れないのではないか」というリアリティです。
大都市圏に比べて市場規模が限られ、外部環境の変化(人口減少や経済変動)の影響をダイレクトに受けやすい地方において、一つの商品や事業に依存することは高いリスクを伴います。
スタートアップへの示唆:
「ひとつ当たったから安泰」ではなく、現業がうまくいっている間に次を仕込む姿勢こそが、長期的な成長の条件。日々の業務で手一杯になりがちですが、「次の種まき」のための余白をどう確保するかは、経営者の最重要課題。
2. 地域資産は「素材」ではなく「加工力」に宿る
「福岡名物の辛子明太子」ですが、実は原料となるスケトウダラの卵(たらこ)の多くは北海道産などの「県外産」です。それなのに、なぜ福岡の名物になり得たのでしょうか?
講演では、その成功要因として「地元の製造技術の活用」が挙げられていました。
これを聞いて私はハッとさせられました。 「地域資産とは、地元の素材そのもの(一次産品)だけを指すのではなく、地元が付加価値をつける『技術』や『加工力』のことではないか」と。
福岡の場合、独自の「味付け技術」やそれを産業として推し進める空気感が、他所から来た素材を「福岡名物」へと昇華させたのだと思います。
スタートアップへの示唆:
「地元の素材(自社独自のサービス・技術)」にこだわりすぎる必要はない。「地域独自の技術(自社独自のサービス・技術) × 外部の優れた資源」という組み合わせこそが、他には真似できない独自価値を生む。
3. ブランドは「競争」よりも「協調」で育つ
辛子明太子がここまで有名な博多名物になった背景には、企業同士の横の連携があったそうです。
特産品展に業界としてまとまって出展したり、各社が協力して「福岡=辛子明太子」という認知を広めたり。その「協調姿勢」が、地域全体のブランド構築につながりました。
スタートアップへの示唆:
資源が限られる地方だからこそ、近隣の競合と争うよりも、「地域全体のストーリー」を共に作り上げる方が、結果として全国への発信力が高まる。単独の点ではなく、地域の面として戦う戦略が必要。
4. 「実験」できる社風がヒットを生む
山口油屋福太郎という会社からは、「とにかくやってみる」という実験の精神を強く感じました。
- 漬物製造のノウハウを明太子開発に応用する
- 生ものである明太子を、保存の効く「せんべい」にする
- 北海道に工場を作り、「ほがじゃ」という新ブランドを展開する
講演の中で社風について詳しく語られたわけではありませんが、おそらく社内には「社員が次の事業を勝手に(良い意味で)試せる空気」があったのではないでしょうか。
スタートアップへの示唆:
既存の枠組みを超え(越境)、小さな実験を繰り返せるカルチャーがある組織ほど、次の成長源を見つけやすい。
5. スケールの鍵は「外から来る人」の動線を掴む
「めんべい」の成長において特筆すべきは、観光客の動線を徹底的に攻略した点です。
福岡をゲートウェイとして、別府や熊本など九州各地へ周遊する観光客のルート上に、それぞれの地域の特色を活かした「ご当地めんべい」を配置することで、販路を拡大していったそうです。
スタートアップへの示唆:
地方企業の成長における最大のポイントは、「外部市場(旅行者や域外の人)との接点をどこに作るか」。地元住民だけをターゲットにするのではなく、地域の外から来る人の「動き」の中に自社のプロダクトをどう滑り込ませるか。ここがスケールの分かれ目。
まとめ – 地方スタートアップは 「地域×越境×協調」 がカギ
今回の講演を通じて、私が感じた「めんべい」成功の本質、そして地方スタートアップへのヒントは以下の3点です。
- 再解釈力: 地域資産を「素材」ではなく「技術」と捉え直し、新しい価値に変換する。
- 協調戦略: 個社で戦わず、地域全体でブランドを育てる横のつながりを持つ。
- 実験文化と動線設計: 越境・実験ができる社風を持ち、外部からの人の流れを取り込む。
これらが揃ったとき、地方企業は「ローカル」の枠を超え、全国区のブランドへと飛躍できるのかもしれません。
もちろん、これらはすべて私の個人的な解釈に過ぎませんが、自社の事業開発を考える上で非常に勇気づけられる、示唆に富んだ時間でした。
たまには専門外の業界の話を聞くのも、新しい視点が得られて面白いですね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よい事業開発を!



