みなさん、こんにちは。
第1回ではNetBSDで「変わらない強さ」を、第2回ではRaspberry Piで「ハードウェアの進化と実務へのシフト」をお届けしました。
シリーズ最後となる今回は、これらを統括するような「ソフトウェアとAIの連携」の話です。テーマは、AI界隈で一時期バズワードとなった「MCP(Model Context Protocol)」です。
講師は、baserCMSユーザー会の江頭竜二さん。「ChatGPTのコネクタ開発から学ぶ、外部サービスをつなぐMCPサーバーの仕組み」と題し、実際にCMSのプラグインとしてコネクタを開発された際の生々しい知見が共有されました。
MCP=AIエージェントのための「共通言語」
そもそもMCPとは何か? 一言で言えば「AIモデルと外部システムを繋ぐための標準規格」です。
これまで、AIに社内データベースを検索させたり、特定のプログラムを実行させたりするには、それぞれのAIモデルに合わせた個別の実装が必要でした。しかし、MCPという共通規格(プロトコル)が登場したことで、様々なデータソースやツールとAIを統一的に接続できるようになりました。
江頭さんのセッションでは、MCPサーバーで実現できることとして以下が挙げられました。
- 社内システムの自然言語による操作
- ドキュメント処理とワークフローの自動化
- 外部からアクセスさせたくない機密データの安全な処理
特に重要なのが3点目です。RAG(検索拡張生成)などの手法において、社外秘のデータを安全にAIの「知識」として取り込み、処理させるためのパイプラインとしてMCPは非常に優秀だというお話でした。
「ローカル」か「リモート」か? 接続方式の選択
MCPサーバーの実装には、大きく分けて2つの接続タイプがあるそうです。これから実装しようと考えている方には重要な分岐点です。
| 接続タイプ | 特徴 | 向いている用途 |
| ローカル (STDIO) | 標準入出力を利用。高速。 | 社内でMCPサーバーをホストする場合。手軽に試したい時。 |
| リモート (SSE) | HTTPリクエスト(Server-Sent Events)を利用。 | 社外へサービスとして機能提供する場合。 |
「とりあえず試すならSTDIO一択」とのこと。
リモート(SSE)を選ぶと、途端に「認証」や「ネットワークレイテンシ」、そして「セキュリティ(権限設計)」の壁が立ちはだかります。さらに、リモート接続の場合はローカルファイルへの直接アクセスが制限されるため、設計の難易度が跳ね上がります。
ちなみに、通信データ形式はJSON-RPCが採用されており、現在は10言語以上のSDKが提供されているため、一からプロトコルを実装する必要はないとのことでした。
開発の裏話 – SSLポートとの闘い
セッションの中で特に面白かったのが、江頭さんが実際にbaserCMS(PHP製)のプラグインとしてコネクタを開発した際の苦労話です。
あえて難易度の高い「SSE(リモート)方式」を採用した結果、予期せぬトラブルに見舞われたそうです。
「ウェブサーバーがSSLポートを握ってしまっていて、MCPサーバーが通信できない」
これ、インフラ周りを触る人なら「うわぁ……」と共感できるトラブルではないでしょうか。結局、解決策として「MCPサーバー用のプロキシサーバーを立てる」という構成で回避したそうですが、こうした泥臭い知見こそが勉強会の醍醐味ですね。
個人的な所感 – MCPはオワコンなのか?
さて、ここからはセッションを聞いて私が個人的に感じたこと、考えたことを書きたいと思います。
みなさんも感じていませんか?
「そういえば最近、MCPの話を聞かなくなったな」と。
2025年前半にあれだけ盛り上がっていたMCPですが、後半の今、少し話題が落ち着いているように見えます。
その理由は、おそらく「AIモデル単体の進化」にあるのではないでしょうか。クラウドAIもローカルAIも基礎性能が劇的に上がり、わざわざMCPで外部ツールと通信しなくても、ある程度のことができてしまうようになってきました。
しかし、だからといってMCPが不要になったわけではありません。
「社外秘のデータを安全に扱いたい」「厳密な権限管理の下で自動処理をさせたい」という企業ニーズがある限り、MCPは「必須のインフラ」として生き残るはずです。バズワードとしての熱狂が去り、実務的な定着フェーズに入ったと言えるでしょう。
「待ち」もまた、戦略の一つ
一方で、フリーランスの私自身が今すぐMCPをバリバリ活用するかと言うと……正直、少し迷っています。
現在のAI技術の進化スピードは異常です。
今日苦労してMCPを駆使した「オレオレAIエージェント」を作っても、来月リリースの新型AIモデルがあっさりとその機能を標準搭載してしまう——そんな陳腐化のリスクが常にあります。
「安定して長く使いたいなら、AIの技術がもう少しこなれるまで待つ」
これもまた、一つの賢い戦略かもしれません。
私自身、現時点では「毎日数十件の面倒な処理を自動化したい」といった切迫したニーズには遭遇していません。そうした場面が来たときに初めて、MCPは強力な武器になるでしょう。
とはいえ、自分が観測している範囲が狭いだけの可能性も大いにあります。技術のキャッチアップだけは怠らず、いつか来る「その時」に備えておきたいと思います。
NetBSDで基礎を固め、Raspberry Piでエッジを理解し、MCPでAIと世界をつなぐ。
今年のOSC福岡は、過去・現在・未来が一本の線でつながるような、非常に示唆に富んだイベントでした。
全3回にわたりレポートにお付き合いいただき、ありがとうございました!
それでは、よいシステム開発を!



