【OSC福岡2025参加レポート続編】Raspberry Piはどこへ向かうのか? 「500+」の衝撃と実務へのシフト

みなさん、こんにちは。

前回は、NetBSDセッションを通じて「変わらないことの凄み」について熱く語ってしまいました。

今回はその対極とも言える「進化し続けるハードウェア」の最前線について書きたいと思います。

NetBSDが「過去の遺産を守る」話だったとすれば、こちらは「現在と未来をどう生き残るか」というお話です。

テーマは、みんな大好き「Raspberry Pi(ラズパイ)」。 講師は、Japanese Raspberry Pi Users Groupの太田昌文さんです。

太田さんは英国のリセラーイベントに参加されたばかりとのことで、現地の生々しい情報やお土産話が満載の、非常に濃いセッションでした。そこには、私たちが抱く「教育用コンピュータ」というイメージとは少し違う、ラズパイの「今」がありました。

 


 

ゲーミング化するラズパイ? 「Raspberry Pi 500+」の正体

 

まず会場がわいたのが、新製品「Raspberry Pi 500+」の情報です。

かつて、キーボード一体型の「Raspberry Pi 400」が販売され、そして現在は「Raspberry Pi 500」が販売されていますが、その正統(?)進化版と言えるでしょう。しかし、そのスペックと価格が少し突き抜けています。

  • 価格: 39,600円(!)
  • キーボード: まさかのメカニカルキーボード化
  • ストレージ: SSD内蔵(OSプリインストール)
  • ギミック: LEDがゲーミングキーボードのように光る

「ラズパイで約4万円……?」と一瞬耳を疑いましたが、SSD内蔵でメカニカルキーボードとなれば、ある意味納得の価格設定かもしれません。ちなみに、今後ポンド高の影響でさらに値上げされる可能性が高いらしく、「欲しい人は早めに確保したほうがいい」とのアドバイスもありました。

日本語キーボード版も発売予定で、内蔵SSDは rpiboot を使えば外部メディアとして認識させてOSの書き換えも可能とのこと。

意外な「サーバー用途」としての適性

ここで面白かったのが、「Raspberry Piをサーバーとして使うなら、実は500/500+がおすすめ」という太田さんの指摘です。

「え、キーボードなのにサーバー?」と思いますよね。 実は、キーボード筐体の裏に実装されたヒートシンクの性能が非常に高く、公式のクーリングファンよりも「静かで、かつ冷える」のだそうです。

フットプリント(設置面積)が大きくなるのが難点ですが、静音性と冷却効率を重視する自宅サーバー勢にとっては、まさかのダークホースとなるかもしれません。

 


 

加速する「企業向け」シフト

 

今後のロードマップについての話もありました。「Raspberry Pi 6」については、現在は他の製品製造にリソースを割かれているため、当面は出てこないようです。

その背景にあるのが、「Compute Module 4(CM4)が売れに売れている」という事実。

最新の「5」ではなく、一つ前の世代である「4」ベースのモジュールが売れている。これは、ユーザー層が「ホビー」から「産業・組み込み」へとシフトしている証拠でしょう。企業ユーザーは、最新の爆速スペックよりも、省電力性能や長期運用の安定性を求めています。

「Raspberry Pi 4発売時も3が売れる現象があった」とのことですが、やはり実務で使うとなると、枯れた技術の安定感は何にもかえがたいものがあります。

大量キッティングの救世主「プロビジョニング」の強化

この「企業利用の拡大」を裏付けるもう一つの大きな動きとして紹介されたのが、プロビジョニング機能の強化です。

企業や工場などでRaspberry Pi(Pi 4, 5, Zero等)を数十台、数百台規模で導入する場合、これまでは1台ずつSDカードを焼いて設定して……という作業が苦行でした。

しかし、新しく公開されたツール(rpi-sb-provisioner)を使用することで、セキュリティを強化したRaspberry Pi OSを一挙に複数台へインストール・設定できるようになるとのこと。

GitHub – raspberrypi/rpi-sb-provisioner

これは明らかに、個人ユーザーではなく「業務で大量にラズパイを展開する情報システム部やSIer」をターゲットにした機能拡充です。ラズパイが単なる学習教材から、産業用インフラの一部として本気で使われ始めていることを実感させられました。

 


 

ホビーの主戦場は「Pico」へ

 

Linuxが動く本家のラズパイが産業用にシフトする一方で、電子工作やホビーの面白さは「Raspberry Pi Pico」に集約されつつあるようです。

セッションでは以下のアップデートが共有されました。

  • 新製品が続々登場予定
  • リアルタイムOS「Zephyr」やRust言語のサポート強化

興味深かったのは、競合であるArduinoとの対比です。ArduinoがQualcommに買収されたことで、「プロプライエタリ化(クローズド化)するのでは?」という懸念が広がり、オープンなPicoへユーザーが流れてきているという話。

実はラズパイ5は仕様非公開のBroadcomチップを使用しているため、完全なオープンとは言えません(前回のNetBSDの話にも通じますね)。しかし、PicoはRaspberry Pi財団がオリジナルのチップを開発して仕様を公開しているため、エコシステムが非常に開放的なのです。そのため、今後はここが「電子工作好き」たちの主戦場になりそうです。

 


 

個人的な所感 – 教育用から「実務の道具」へ

 

セッションを聞き終えて改めて感じたのは、Raspberry Piはもはや「安価な教育用玩具」の枠を完全に超えてしまった、ということです。

当初の構想とは裏腹に、実際にラズパイを大量購入して支えているのは、「これは実務で使える」と判断した企業ユーザーたちです。その結果、CM4のヒットやプロビジョニングツールの提供など、機能も企業向けに拡充されてきました。 実際、私自身も業務でオリジナルシステムを組み込んだラズパイを開発しています。PCほどのパワーはいらないけれど、省電力でそこそこのマルチタスクをこなしたい。そして何より入手性が良い。このバランスにおいて、ラズパイは依然として最適解です。

500+ への期待と不安

一方で、新製品の「500+」については、正直なところ複雑な心境です。 最初の1台として周辺機器を揃える手間がないのは魅力ですが、過去に「Raspberry Pi 400」を複数台導入した経験から言うと、耐久性や品質の個体差には不安が残ります。

今回の500+も「ガワは中国製なのでキーボードとしての品質は……」というお話がチラッとありましたが、教育現場や業務で大量導入するには、もう少しハードウェアとしての信頼性が欲しいのが本音です。

 


 

まとめ – 生成AI時代のエッジデバイスとして

 

最後に、明るい未来の話で締めくくりたいと思います。

Raspberry Pi Official Magazineの編集者であるRobz氏は、日本びいきということもあり、日本のユーザーからの作例(ラズパイやPicoを使った事例)を募集しているそうです。採用される確率は高いそうなので、我こそはという方はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

今、プログラミングの敷居は生成AIによって劇的に下がっています。 「ちょっとしたことを制御する常時稼働デバイス」としてのラズパイと、コードを書いてくれるAI。この組み合わせは、私たちの身の回りの「不便」を解消する最強のツールになるはずです。

産業用にシフトしつつも、Picoのようなホビーの楽しさも忘れない。 私も引き続き、ラズパイで「少しだけ世の中を良くする」ようなものを作り続けていきたいと思います。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは、よい Raspberry Pi ライフを!

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