ロマンとソロバン

みなさん、こんにちは。

2025年も残すところあとわずかとなりました。街はクリスマスの喧騒が落ち着き、静かに新年を迎えようとする独特の空気感に包まれています。

この慌ただしい師走の時期だからこそ、今回は技術とビジネスの交差点に立つ私たちIoT事業者が、今一度立ち止まって考えるべき「原点」について綴りたいと思います。

きっかけは、MSX規格の提唱者であり、日本のコンピュータ史を語る上で欠かせない西和彦氏が、次世代規格「MSX2++」を巡る議論の中で発した、ある言葉でした。

「世の中はロマンだけでは無理です、ビジネスが必ず必要です」 (西和彦氏のXより / 2025年12月22日)

MSXという、1980年代の少年少女に「コンピュータのロマン」を植え付け、未来への扉を開いたプラットフォームの生みの親が、2025年末の今、あえてこの現実的な言葉を呟いたこと。そこには、技術を愛するすべての人へ向けた、重く、そして温かいメッセージが込められているように感じます。

この投稿を読んで、私はハッとさせられました。そして何日か、真剣に考え続けました。この言葉の本質は一体どこにあるのか、と。

この問いは、IoTという「理想(技術)」と「現実(コスト)」が激しくぶつかり合う領域に身を置く私たち事業者にとって、生存戦略そのものを指し示しているのではないでしょうか。

 


 

ロマンとソロバンは「両輪」である

 

改めて、西氏の言う「ロマン」と「ソロバン」を、事業に当てはめて定義してみましょう。

  • ロマン(意志)
    採算を度外視してでも、「これを実現したい」「このデータで世界をこう変えたい」という純粋な意志を貫徹すること。
  • ソロバン(継続性)
    緻密に収支を合わせ、事業を存続させるためのエンジンを回し続けること。

IoTビジネスにおいて、この両者のバランスを保つことは、他のITサービス以上に困難です。

なぜなら、IoTには「モノ」が介在するからです。デバイスの製造コスト、通信の維持費、物理的なメンテナンス。そこにはソフトウェアだけの世界では無視できていた「重力」が存在します。

革新的なデバイスやサービスを夢見る「ロマン」は、プロジェクトの着火剤として不可欠です。しかし、ロマンだけでは、いずれ開発資金や人的リソースという燃料を使い果たし、夢の途中で止まってしまいます。これを「PoC(概念実証)の谷」と呼ぶこともできるでしょう。

一方で、お金を稼ぐことだけを目的にした、魂のない「ソロバン」はどうでしょうか。短期的な利益は出るかもしれませんが、そこにはユーザーの心を動かす感動も、社会を根底から変える力も宿りません。そんな事業は、競合との価格競争に巻き込まれ、いずれ摩耗して消えていきます。

「ロマンだけでは力尽き、ソロバンだけでは魂が抜ける」

この両輪が同じ大きさで揃い、力強く回転して初めて、事業は「継続」という形を成すのです。

 


 

事業の本質は「社会価値の継続的提供」にある

 

そもそも、私たちが事業活動を行う本当の意味とは何でしょうか。

西氏の言葉を何度も咀嚼しながら改めて確信したのは、「事業とは、社会に対して継続的に価値を提供し続けるプロセスそのものである」ということです。

この視点に立つと、利益(お金)の捉え方が変わります。利益とは、私たちが提供した価値を社会が認め、「その活動をこれからも続けてほしい」と託された、いわば「社会からの継続許可証」に過ぎません。

「お金を稼ぐために事業をする」という考え方は、主客転倒です。正しくは、「事業という価値提供を止めないために、お金というエネルギーを使い、緻密にソロバンをはじく」べきなのです。

この意識が欠落すると、いつの間にか「利益率」や「売上目標」という数字そのものが目的になり、その裏側にあるはずの「誰を幸せにしているか」という視点が抜け落ちてしまいます。それが、ビジネスが「金さえ儲かればいい」という冷酷な発想に陥る罠です。

 


 

お金を「価値」に変えるのが実業家の役割

 

現代社会において、最も効率的にお金を増やす方法は「金融投資」でしょう。 お金がお金を生む複利の力は強大であり、2025年の市場環境を見ても、そこには確かな再現性と成功確率が存在します。

しかし、ここで立ち止まって考える必要があります。金融投資そのものは、直接的に社会に新しい価値(=ゼロからイチへの変化)を生み出しているわけではありません。投資家が投じた資金が、実業家によって「新しい技術」や「新しいインフラ」に変換されて初めて、社会の総量としての価値が増えるのです。

私たちIoT事業者の役割は、まさにその「価値の変換」の最前線に立つことです。

現実世界の物理的な事象をセンサーで拾い、クラウドで解析し、フィードバックによって現実を書き換える。その一つひとつのプロセスによって、誰かの不便を解消し、社会の無駄を削ぎ落とし、安心・安全を創り出す。

もし自分の中に社会価値を増やすためのアイデアや技術、そして情熱があるのなら、単にお金を貯め込むことに執着する必要はありません。むしろ、その才能を使って社会を豊かにすることに全力を注ぐべきです。

 


 

自問自答のすすめ

 

今日は12月26日。クリスマスも終わり、街は一気に正月飾りの準備へと移り変わっています。金融面で見れば、2025年の日本株は堅調に推移した一年でした。資産を増やすことだけが目的なら、さらに投資額を増やすのが正解かもしれません。

しかし、もし「実業」という名の荒野に身を置いているのであれば、この年末に改めて、自分たちの足元を見つめ直してみませんか。

  • 自分が手がけているIoTプロジェクトは、2026年、誰の、どんな社会価値を具体的に増やしていくのか?
  • その価値を10年、20年と「継続」させるために、今のソロバンは正しく弾けているか?

社会価値を増やすビジョンが明確に見えているのなら、ソロバンを叩く手をもっと速めましょう。それは、自分たちの持つロマンを、世の中の「当たり前」にするための、事業者としての最も誠実な行為です。

2025年の残り数日。 単なる「数字の積み上げ」ではない、本質的な「価値の創造」に改めてフォーカスし、輝かしい2026年を迎えましょう。

自分たちにしかできない「ロマン」を、誰にも文句を言わせない「ソロバン」で証明していく。2026年はそんな一年にしていきたいですね。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

それではよい事業開発を!

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