みなさん、こんにちは。
先日、福岡で開催された「サイボウズ クラウドガーデン in 福岡」に参加しました。
今回は、このイベントで感じたノーコードツールと生成AIの可能性、そしてサイボウズが掲げる「文系管理職でも簡単」というメッセージの真実について、私が感じたことを書いてみます。
キントーン一色のイベントと、そのマーケティング戦略
サイボウズのイベントですから、主力製品であるオフィス、ガルーン、メールワイズ、キントーンの紹介がバランス良く行われると思っていましたが、今回はほぼ全編にわたってキントーン一色でした。かつてはグループウェアの「サイボウズオフィス」のイメージが強かった同社ですが、現在はクラウドデータベースサービスであるキントーンがその中核を担っていることを改めて認識しました。
キントーンのマーケティング戦略は、企業内に大量に存在するExcelファイルを代替することに主眼を置いているようです。ノーコードツールとして専門知識がない人でも利用できる点を強く訴求しており、そのイメージキャラクターに豊川悦司氏演じる文系管理職を起用していることからも、その狙いが明確に伝わってきます。
サイボウズ青野社長の提言とその課題
イベントは、サイボウズ社長である青野慶久氏の講演からスタートしました。青野氏のメッセージもまた、「文系管理職でもシステム構築が可能である」という点を強調していました。
講演は、日本におけるIT人材の圧倒的な不足、それに伴うシステム開発の外部業者への丸投げ、そしてその結果としてDXが進まない現状に対する問題提起から始まりました。外部業者では業務の深い理解が難しく、既存の紙媒体の電子化にとどまるケースが多いこと、そしてシステム化されない周辺業務は現場がExcelを駆使してなんとか回しているという状況が、DXを阻害しているという指摘です。
青野氏は、この状況を打破するために「現場が作成しているExcelデータを連携することでDX化が進む」と提唱しました。Excelのままではシステム連携が難しいものの、キントーンに置き換えれば容易になり、DXを加速できるはずだというのです。さらに、キントーンはExcelのように使えるため、外部に頼らず社内で内製できるはずだと訴えます。内製化によるコスト削減と迅速なシステム構築が、その優位性の根拠として挙げられていました。そして、プログラムの知識がない「文系管理職」こそが率先してキントーンを利用することで社内の風が変わり、DX化が加速されるはずだという結論にたどり着くわけです。
しかし、この提言にはいくつかの疑問が残ります。
本当にExcelを連携させるだけでDX化は可能なのでしょうか。そして、キントーンは本当にExcelのように簡単に使えるものなのでしょうか。
「Excelの置き換え=DX」の誤解と、ノーコードツールの現実的な難易度
まず、「Excelを連携させることでDX化ができるのか」という点については、疑問符をつけざるを得ません。なぜなら、多くのExcelファイルは、単に紙の帳票の電子的な置き換えに過ぎないことが多いからです。実際に、Excelデータを印刷して帳票として利用している企業も少なくありません。
電子データ化されることで初めて実現できること、例えばデータ間の連携による自動化、リアルタイムな情報共有、データ分析による意思決定の迅速化といったメリットを明確に意識しない限り、単にExcelをキントーンに置き換えただけではDX化は達成できません。むしろ、これまで自由に印刷できていたものができなくなる、表のレイアウトが崩れるといった不満が現場から噴出し、かえって業務の効率が落ちる可能性すらあります。DXの本質は、既存業務の単なる電子化ではなく、デジタル技術を活用して業務プロセスそのものやビジネスモデルを変革することにあるはずです。
この部分の補完のために、サイボウズでは外部のパートナー企業が伴走し、キントーンを活用したDX化を手伝ってくれると訴求していましたが、「キントーンは簡単に使える」というキャッチコピーと相性が悪く、うまく伝わっていなかったように感じました。しかし、パートナー企業との連携は、専門知識の補完や複雑な業務要件の整理において、キントーン導入の成功確率を高める上で不可欠な要素です。
次に、「キントーンはExcelのように簡単に使えるのか」という問いに対しては、残念ながら「簡単ではない」と言わざるを得ません。キントーンはデータベースサービスであるため、利用にあたっては設計が不可欠です。Excelは、セルに自由に数値や文字を入力できますが、キントーンではフィールドに何を入力するのかを事前に設計し、定義しなければなりません。データベースの特性上、自由度は低いのです。このデータベース設計の概念に慣れていない場合、非常に高いハードルとなるでしょう。
また、入力画面の作成も一筋縄ではいきません。Excelを踏襲して単純な表形式で入力できるようにすればよいと考えるかもしれませんが、キントーンはカード型データベースであるため、Excelのようにすべてのデータを一覧表示して入力する画面を作ることに関しては、基本的に不向きです。そのため、Excelの行に相当する「入力フォーム」を作成するのが基本となります。しかし、フォームを作成するという行為は、単純な表を作成する作業に比べて難易度が高く、ドラッグ&ドロップで作成できるとはいえ、そのレイアウトやユーザーインターフェースを最適化するには、ある種の「職人技」が求められるのが実情です。
したがって、キントーンを導入したからといって、すぐにDX化が達成されるわけではなく、利用者が新たな学習と習熟を重ねる必要があるのです。
生成AIの可能性と、ノーコードツールとの協調
それでは、これらの課題を解決するために、学習せずにすべてを自然言語で指示し、生成AIに任せるという選択肢はどうでしょうか。ある意味では、このアプローチは正しいと言えます。近年の生成AIの性能向上は目覚ましく、自然言語で指示を与えれば、それらしいシステムを生成してくれるまでになっています。
しかし、生成されたシステムを自分で調整しようとすると、途端に難易度が跳ね上がります。生成されたコードを読み解き、その中身を理解しなければ、意図する調整を行うことが困難だからです。また、生成AIに修正を指示する場合でも、どの部分をどのように修正すべきかを明確に指示しなければ、予期せぬ修正が行われてしまうことも少なくありません。
したがって、少なくともコードを読む能力がない限り、生成AIにすべてを任せるのは現時点では避けた方が賢明でしょう。
実は、この部分で、ノーコードツールの真価が発揮されてくるのです。生成AIとノーコードツールを組み合わせることで、それぞれの長所を最大限に引き出せます。
生成AIとノーコードツールの最適な連携戦略
私が考える最適な連携戦略は以下の通りです。
まず、システムの設計と基本的な機能の実装は、生成AIに依頼します。自然言語で、ノーコードツールの部品に合わせてシステムを生成してもらうのです。これにより、システム開発の初期段階における労力を大幅に削減できます。
その次の段階として、細かなフィールド名、画面レイアウト、権限分岐、連携APIといった、部分的なカスタマイズや現場からのフィードバックに基づいた調整が必要な部分でノーコードツールを活用するのです。このアプローチであれば、生成AIが生成したシステムの土台を、専門的な知識がなくとも、ある程度は自分たちで調整・改善していくことが可能になります。
この意味で、キントーンのAI機能(検索AI、アプリ作成AI、プロセス管理AI)には大いに期待しています。もしAIが適切にユーザーをナビゲートし、設計やフォーム作成の難易度を下げてくれるならば、前述した「簡単ではない」というキントーンの敷居の高さは解消されるでしょう。
しかし、せっかくのAI機能も、今回のイベントでは「こんなこともできるよ」というお披露目の段階に過ぎませんでした。サイボウズとしてもまだ自信を持って前面に押し出せる段階ではないのかもしれません。しかし、ノーコードツールにとって、このAIによるサポート機能こそが本丸であり、それがなければツールとしての魅力は半減してしまいます。今回は本当に触りだけでしたが、次回こそはAI機能を前面に押し出してくれることに期待したいと思います。
イベントの総括 – 真のDXとノーコードツールの活用法
今回のイベントを通して感じたのは、「文系管理職でもシュシュっと業務アプリが作れる」という謳い文句が、現状では完全なミスリードであるということです。ノーコードツールは専門的知識がない人でも使える、というのは誇張表現であり、かえって顧客に不信感を抱かせます。
現実は、文系管理職でもノーコードツールを簡単に使いこなすのは難しい。しかし、日本語でAIに指示を出せるのであれば、生成されたシステムをノーコードツールで微調整するところまでは簡単に到達できる、というくらいです。 もしキャッチコピーを作るなら、以下のようになるでしょう。
「AIに頼れるから、文系管理職でもノーコードで業務アプリがつくれる時代に。」
イベントの参加者には、事業会社の現場担当者が多く、実際に「文系管理職」の方もいらっしゃったかもしれません。多くの方が講演を真に受け、Excelをキントーンに移行しようと考えて会場を後にしたのではないでしょうか。実際、青野社長をはじめ、イベント登壇者の多くはその方向に製品を訴求していました。
しかし、そうではありません。単にExcelをキントーンに移行するのは難易度が高く、安易な移行は避けるべきです。そのようなことをしても、結局は「Excelのように帳票印刷できるようにしろ」といったクレームが日々寄せられるだけです。
その代わりに目指すべきは、Excelが担っている業務の真の目的を言語化し、それをもとに生成AIにキントーンのたたき台を作成してもらうことです。そして、そのたたき台をキントーンで微調整していくというアプローチが、現状でできる最善策なのです。Excelは、資料として活用する分には問題ありませんが、そのフォーマットや運用をそのままシステムに移行してはいけません。
目的の言語化が難しいと感じたならば、その時はサイボウズの外部パートナー企業に伴走をお願いしましょう。
このような視点を持つことが、事業会社において真のDXを推進するための鍵となるはずです。
イベントに参加されたみなさんに、このアプローチによる成功が訪れることを願ってやみません。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よいシステム開発を!