新規事業成功の鍵 – なぜ「理想像」と「問い」がすべてを決めるのか?

みなさん、こんにちは。

新規事業やプロダクト開発に携わる中で、「何から手をつけるべきか?」と悩んだことはありませんか?アイデアはたくさんあるのに、なぜか形にならない。そんな経験をお持ちの方に、今回は「製品開発の出発点」となる、最も重要な2つの要素についてお話しします。

それは、「理想像の描き方」と「問いの設定」です。

特にIoTのような技術分野では、技術そのものに目が奪われがちですが、本当に革新的な製品やサービスを生み出すには、技術の先にどのような未来を創造したいのか、という根本的な問いに向き合う必要があります。

今回は、新規事業を成功に導くための「理想像の描き方」と「問いの設定」の具体的な手法を、私の専門分野である医療IoTの事例を交えながら、深く掘り下げていきます。

 


 

1. 課題解決型 vs 価値創出型 – 製品開発の2つのアプローチ

 

製品開発には、大きく分けて2つのアプローチがあることを以前お話しました。

念のため、もう一度おさらいしておきましょう。

アプローチA – 課題解決型(フォーキャスト思考)

これは、現在存在する「不便」や「非効率」といった課題を見つけ、それを解決するソリューションを提供するアプローチです。 例えば、「遠隔地の患者の容態を把握したい」という課題に対して、バイタルデータをリアルタイムで送信するIoTデバイスを開発する、といったケースがこれにあたります。

このアプローチは、市場のニーズが明確で、短期間での成果が見えやすいというメリットがあります。しかし、既存の枠組みの中で最適化を図るため、市場を根本から変えるような大きなイノベーションは生まれにくいという側面もあります。AIが得意とする、過去のデータから未来を予測する「フォーキャスト型」の思考に近いと言えるでしょう。

アプローチB – 価値創出型(バックキャスト思考)

一方、こちらはまだ誰も意識していない「理想の未来」を描き、それを実現するための新しい価値を創造するアプローチです。 例えば、「病気を前提に、誰もが自分らしく充実して生きられる社会」という壮大な理想を掲げ、それを実現するための製品やサービスを逆算して開発する、といったケースです。

このアプローチは、すぐに具体的なソリューションが見つからなくても、全く新しい市場を創造する可能性を秘めています。これは、人間が持つ「こうあってほしい」という強い願いや想像力から生まれるもので、「バックキャスト型」の思考が不可欠です。

IoT技術は、この「価値創出型」のアプローチにおいて、理想像を実現するための強力なツールとなります。しかし、どんな技術をどう使うか、その指針となるのが、次に解説する「理想像の描き方」と「問いの設定」なのです。

 


 

2. すべては「理想像」から始まる – 未来を描く力

 

価値創出の出発点は、まさに「どんな未来をつくりたいのか」という理想像を描くことです。

この理想像を、AIに任せることはできません。AIは膨大なデータを分析し、論理的な答えを導き出すことは得意ですが、人々の心に響くような、感動的な未来を想像することはできません。なぜなら、価値とは、人が心で感じるものだからです。本質的に感情のないAIには不可能なことなんです。

技術者や経営者である私たちは、まずこの「未来を描く」という、最も人間らしいクリエイティブな作業に時間をかける必要があります。このステップを飛ばして具体的なアイデアに飛びついてしまうと、後から「結局、何のための製品だっけ?」という本質的な問いに答えられなくなってしまいます。

 


 

3. 「理想像」を「問い」に変える5つのステップ

 

壮大な理想像を描いたら、次はその理想に近づくための具体的な道筋を立てる必要があります。その道しるべとなるのが「問い」です。ここでは、理想像から意味のある問いを導き出すための5つのステップをご紹介します。

 

ステップ1:理想像を描く

まずは、制約を一切考えずに、心から「こうなったらいいな」と思う未来を描きます。

例:誰もが安心して、自分らしく生きられる医療の未来

 

ステップ2:要素を洗い出す

その理想像に関わる、ありとあらゆる要素を洗い出します。

例: 患者、家族、医療従事者、テクノロジー(IoT、AI、ロボット)、制度(保険、法律)、社会のインフラ、など

 

ステップ3:要素間の関係性を整理する

洗い出した要素と要素の間に、どのような関係性があるのか、どうあるべきかを考えます。

例: 患者と家族の精神的なつながりをどう支えるか? テクノロジーは医療従事者の業務を補助するのか、それとも役割を代替するのか?

 

ステップ4:コア原則を定める

理想像を現実につなぐための、絶対にブレてはいけない「行動の原則」を言語化します。これは、羅針盤のような役割を果たします。

例: 「人間らしい尊厳を最優先する」「テクノロジーは人と人を孤立させず、つながりを生み出す」「支援する側の負担を最小化する」

 

ステップ5:問いを設定する

最後に、ステップ1〜4で整理した内容を基に、行動を促すような、具体的で本質的な「問い」を立てます。

例:

  • 「どうすれば、医療従事者が疲弊することなく、患者の『生きる』を支えられるか?」
  • 「テクノロジーを活用することで、病院の外でも患者が『居場所』を感じられるようにするにはどうすればよいか?」
  • 「病気というハンディキャップがあっても、その人らしい能力や個性を最大限に活かせる社会をどう築くか?」

この「問い」こそが、これから取り組むすべての製品開発やサービス開発の土台となるのです。

 


 

4. なぜ「問い」がイノベーションを生み出すのか?

 

「問い」は、単なる疑問文ではありません。それは、私たちが進むべき方向を指し示す「羅針盤」です。

適切な「問い」が設定されると、そこから生まれるアイデアやソリューションは、自然と理想像へと収束していきます。逆に、問いが曖昧だと、どんなに優れた技術やアイデアがあっても、開発の方向性を見失い、結果として誰にも響かない製品になってしまいます。

例えば、多くのIoT技術者は「いかに正確なデータを取得するか」という技術的な問いからスタートしがちです。これは重要なことですが、本当にイノベーションを生む問いは、その先にある「なぜそのデータが必要なのか?」「そのデータは誰の、どんな感情を支えるのか?」という、より本質的な部分にあります。

  • IoTデバイスの問い例:
    • 技術起点:「このデバイスで、どうすれば心拍数を99%の精度で計測できるか?」
    • 価値起点:「このデバイスは、心拍データを通じて、患者や家族に『どんな安心』を届けられるか?」

後者の問いから生まれた製品は、単なる医療機器ではなく、患者と家族の精神的なつながりを支える、全く新しい価値を持つサービスへと進化する可能性を秘めているのです。

 


 

5. IoT技術者の役割が変わる – 技術の先の「物語」を描く

 

これまで、多くの技術者は「いかに技術的に優れたものを創るか」に注力してきました。しかし、価値創出型の新規事業においては、その役割は「技術の力を借りて、どのような未来の物語を紡ぐか」という部分にまで広がります。

ここで重要なのが、人とAIの協働です。

理想像を描き、意味のある「問い」を立てるのは、人間の想像力と共感力にしかできない領域です。一方で、その問いに対する答えを見つけるために、膨大なデータを分析したり、要素間の最適な関係性を整理したりするのは、AIが得意とするところです。

AIを単なるツールとして使うのではなく、未来を共創するパートナーとして活用することで、私たちはより深く、より本質的な問いにたどり着くことができるようになります。

 


 

6. まとめ – 今日から始める「問いのデザイン」

 

製品開発は、決してアイデアや技術から始まるものではありません。それは、自分が心から望む「理想の未来」を描き、それを実現するための「問い」を立てることから始まります。

  1. 解決は「理想像」を描くことから始まる
    • 制約を取り払い、心から望む未来を自由に想像しよう。
  2. 「理想像」を「問い」に変換するプロセス
    • 理想像→要素→関係性→コア原則→問い、という5つのステップを踏むことで、意味のある問いが生まれる。
  3. 「問い」こそがイノベーションの出発点
    • 優れた製品やサービスは、優れた「問い」に対する答えとして生まれる。

技術がコモディティ化し、誰もが似たような機能を持つ製品を開発できる時代だからこそ、この「理想像」と「問い」をデザインする力が、他社との差別化を生む決定的な要素となります。

どんな未来を描きたいですか? そして、その未来を実現するために、どんな「問い」を立てますか?

もし、その第一歩をどこから踏み出すべきか迷っている方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご相談ください。

未来への第一歩を、一緒に踏み出しましょう。

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本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、よい製品開発を!

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