みなさん、こんにちは。
普段、さまざまな医療機関を訪れる機会が多いのですが、そこでいつも感じるのが、その組織が非常にヒエラルキー型であることです。医師、看護師、技師、事務スタッフといった役割が明確に分かれ、指示系統もはっきりしています。特に医療行為において、最終的な判断と責任を負うのは、必ず医師です。

一方、私自身が関わるシステム開発の現場では、アジャイル開発が主流となり、フラットで自律的なチームが多いです。もちろんリーダーはいますが、メンバー全員が対等に意見を出し合い、協力しながらプロジェクトを進めるスタイルが一般的です。

この二つの分野は、なぜこれほどまでに異なる組織形態をとっているのでしょうか?
今回は、「医療現場の組織構造」と「システム開発におけるアジャイル組織」を比較しながら、その違いが生まれた背景と、これから両者がどのように進化していくのかについて掘り下げてみたいと思います。
なぜ、医療は「ヒエラルキー型」なのか
医療機関がヒエラルキー型組織であることは、その業務の特殊性に理由があります。主治医や執刀医といった「責任者」が必ず存在し、最終的な判断を下すのが一般的です。その背景には、以下のような切実な理由があります。
- リスクが命に直結する
- 手術や治療の判断ミスは、患者さんの命にかかわる取り返しのつかない事態を招きます。絶対に失敗が許されないというプレッシャーの中で、意思決定の明確性が求められます。
- 時間の猶予がない
- 救急対応や患者さんの急変時には、秒単位での迅速な判断が必要です。曖昧な指示や多数決による議論は命取りになりかねません。
- 責任の所在が法的に明確
- 医療の世界では、誰が最終的な決定を下したかという「責任の所在」が法的に明確に定められています。医師が最終的な責任を負うことで、安全性が担保されています。
このように、医療は「意思決定のスピード」と「責任の所在」を明確にするために、ヒエラルキー型の組織が合理的だったのです。
なぜ、システム開発は「アジャイル型」なのか
一方で、システム開発の現場で主流となっている「アジャイル開発」は、フラットで自律的なチームを基本としています。その背景にあるのは、市場や技術の急速な変化です。
- 要件が変わりやすい
- ユーザーのニーズは常に変化するため、プロジェクトの途中で仕様変更が頻繁に発生します。ガチガチの計画よりも、柔軟な対応が求められます。
- 失敗してもやり直せる
- コードの修正や仕様の変更は比較的容易で、致命的な事故につながることはほとんどありません。失敗を恐れずに試行錯誤できる環境があります。
- 改善の反復が価値を生む
- 短いサイクルで開発と改善を繰り返すことで、よりユーザーの期待に応える製品を生み出すことができます。
つまり、「変化への柔軟性」が何よりも重要視されるため、アジャイル型のフラットな組織がフィットしているのです。
医療とシステム開発、それぞれの組織を比較すると
ここまで見てきた背景を、以下の表にまとめてみましょう。両者の違いがより明確になります。
観点 | 医療 | システム開発 |
リスク | 命に直結 | 金銭的損失や遅延 |
時間 | 緊急性が非常に高い | 相対的に猶予がある |
責任 | 個人(主治医・執刀医) | チームで分担 |
成果物 | 一回性のもの(手術・診断) | 反復改善型のもの(ソフトウェア) |
失敗の扱い | 許されにくい | 学習として受け入れやすい |
この対照的な特徴が、それぞれの組織形態を形作ってきたことがわかりますね。
組織の未来 – ハイブリッド型への進化
興味深いのは、この数年で医療とシステム開発の双方が、まるで示し合わせたかのように「相手のやり方」を一部取り入れ始めていることです。
医療の変化
- チーム医療の強化
- 医師だけでなく、看護師や臨床工学技士といった他職種の意見を積極的に取り入れ、フラットな協働を進める動きが広がっています。
- アジャイル的な学習サイクル
- シミュレーションによるトレーニングやカンファレンスでの「振り返り」を通じて、改善を繰り返す文化が根付き始めています。
システム開発の変化
- 責任の明確化
- 近年は生成AIによって自動生成されるコードが増えたことで、その品質を担保するために責任者を明確にする必要性が高まっています。
- ガバナンスの強化
- DevOps文化が広がる一方で、セキュリティや法令遵守といった観点から、ヒエラルキー的な要素を補強する動きも見られます。
ヒエラルキーとアジャイルのハイブリッドが未来の鍵
結局のところ、両者が向かっているのは「フラットさと責任明確化の両立」だと言えるでしょう。
- 医療: 平常時はフラットな協働で意見を出し合い、緊急時にはヒエラルキーで迅速な意思決定を行う。
- システム開発: 普段は自律的なチームで自由に開発を進め、リスクの高い局面では責任者を明確にしてガバナンスを効かせる。
互いの弱点を補い合うように進化しているこの流れは、非常に興味深いものです。共通しているのは、「平時はフラットな協働を重視し、リスクが高まる局面ではヒエラルキー的な要素を取り入れる」という点です。この切り替えのタイミングをどう見極めるかが、これからの組織運営の鍵となるはずです。
まとめ
医療は「命のリスク」に、システム開発は「変化のリスク」にそれぞれ向き合ってきた結果、異なる組織形態が生まれました。
しかし今後は、医療はアジャイル的な柔軟性を、システム開発は医療的なガバナンスを取り入れ、「ヒエラルキーとアジャイルのハイブリッド」が新たなスタンダードになっていくでしょう。重要なのは、どちらか一方に偏るのではなく、状況に応じて両者のバランスを取ることです。メンバー間の信頼関係と、明確な責任分担が両立する組織こそが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。
みなさんの職場やプロジェクトチームでは、ヒエラルキーとアジャイル、どちらの要素が強いですか? チームの状況を見つめ直すことが、次の進化につながるかもしれませんよ。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よいプロジェクトマネジメントを!