みなさん、こんにちは。
多摩美術大学の「Tama Design University」 講義シリーズが10/17にスタートしました。
今回は第4シリーズでテーマは「デザインという問い」です。全14回、11/3まで開催されています。
詳細はこちらをご覧ください。
私は第1シリーズからシステムの企画者として聴講していますが、毎回非常に唸らされ、この講義を楽しみにしています。
第4シリーズの1回目は「あなたはなんの当事者ですか?」という問いかけから始まりました。自分の立ち位置を意識し、社会との関係を見直すことで、どんな立場に立っていても「ひとりじゃない」と思えるという話でした。
今日は、この「当事者意識」というテーマを、システム開発やプロダクトマネジメントの視点から深く掘り下げて考えてみたいと思います。
システム開発のジレンマ – 当事者性と客観性の狭間で
システム開発をしていると、よく耳にする言葉があります。
「当事者意識を持て」「ユーザーの立場に立て」。
確かに、利用者の気持ちを理解し、自分ごととして考える姿勢は良いシステムづくりの基本です。
しかし、現実はそう単純ではありません。
当事者意識が強すぎると、周囲の関係が見えなくなり、結果として「独りよがり」なシステムになってしまうこともあります。逆に、観察者のように冷静になりすぎると、ユーザーの心を動かす「熱量」が消えてしまう。
このバランスをどう取るか、それがプロダクトマネジメントの永遠のテーマです。
当事者モードと観察者モードを切り替える
私が意識しているのは、「当事者モード」と「観察者モード」を意図的に切り替えることです。
当事者モードでは、現場に立ち、実際に使う人の気持ちを体験します。たとえば看護師の立場なら、忙しい中での操作感や判断の瞬間をリアルに感じることに努めます。
観察者モードでは、一歩引いてシステム全体を見ます。その操作が他の職種や管理者にどんな影響を与えるのか、組織としてどう機能するのかを俯瞰します。
この2つのモードを意識的に切り替えることで、「自分たちの理想」と「現実的な整合性」の間で迷走しにくくなります。
「平均点のシステム」は誰の心にも残らない
ところが、両方の視点を同時に最適化しようとすると、往々にして「凡庸なシステム」が生まれます。
どの立場から見ても悪くはないけれど、強く支持されるわけでもない。
つまり、「全員にとってそこそこ良い」は「誰にとっても特別ではない」のです。
プロダクトがまだ市場に受け入れられていない初期段階では、あえてバランスを崩し、特定の層に熱狂的に刺さるものを作る方が正しいと私は考えています。
最初から「万人受け」を狙うと、個性のない設計になり、結果的に誰からも選ばれません。
バランスを「取る」のではなく「操る」
重要なのは、バランスを崩すこと自体が目的ではなく、それを戦略的に操作することです。
当事者の視点で深く掘り下げ、「この人たちのために作る」という明確なターゲットを定めた上で、観察者の視点を使って暴走を制御する。
たとえばこう整理できます。
| フェーズ | 重視する視点 | 目的と効果 |
| 初期 | 当事者モード(偏り) | コアユーザーの心を深く掴み、熱狂を生む。 |
| 成長期 | 観察者モード(整理) | 機能を整備し、一般化・安定運用を目指す。 |
| 成熟期 | 両モードの往復(維持) | コアバリューを維持しつつ、市場や文化を拡張する。 |
バランスを「取る」ことは静的な状態ですが、バランスを「操る」ことは動的なプロセスです。
プロダクトマネジメントとは、この揺らぎを意図的にコントロールする行為だと言えます。
市場を動かすのは「共感される偏り」
ユーザーに熱狂をもたらすのは、システムの完璧さではなく共感の強度です。
100人中10人に「これを作った人は、私のことを分かっている」と感じさせるものを作る方が、100人全員に「まあまあ」と思われるものを作るより、市場を動かす可能性は遥かに高い。
その10人が口コミの中心となり、プロダクトの「文化」を形成するからです。
ケーススタディ:見守りシステムにおける視点の転換
介護や医療の分野で広く使われている「見守りシステム」は、これまで見守る側(家族・介護者)の視点で設計されてきました。
安全性、通知の確実性、管理のしやすさ、これらは確かに重要です。
しかし、今後の介護市場で求められるのは、あえて「見守られる側」の当事者視点を持ち込んだシステムではないでしょうか。
- 「監視されている」と感じさせないプライバシー設計
- 「見守られることが自立を支えること」と感じられる体験設計
市場で当たり前とされてきた視点を逆転させる勇気こそが、新しい文化を生み、凡庸なシステムを超える鍵となります。
まとめ – バランスを操ることで生まれる価値
システム開発における当事者意識と観察者視点のバランスは、均等に保つことが目的ではありません。どちらに軸足を置くかを、状況に応じて「操る」ことこそが本質です。
そして、ときにはそのバランスをあえて崩し、「共感される偏り」をつくることでしか生まれない価値があります。
見守りシステムのように、市場で当たり前とされてきた視点を逆転させる勇気こそ、これからの時代に本当に求められるシステム開発の姿勢だと思います。
みなさんもぜひ、自分のプロジェクトでこのバランスの操り方を試してみてください。
ビューローみかみでは、システム開発における当事者意識と観察者視点のバランスを重視し、クライアントとユーザー双方に価値を提供するソリューションを提案しています。ご興味のある方は、ぜひご相談ください。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、よいシステム開発ライフを!



