はじめに
IoTシステムの普及に伴い、大量のデータを高速に転送する需要が高まっています。
本記事では、IoTシステムで利用可能な主要な高速通信ネットワークサービスについて、その特徴と活用方法を解説します。
1. Wi-Fi通信
2.4GHz帯Wi-Fi
2.4GHz帯Wi-Fiは、最も一般的な無線通信規格の一つです。
主な特徴:
- 無線免許が不要で導入が容易
- 通信速度:150~600Mbpsの高速通信が可能
- 一般的な到達範囲:屋内で20~30メートル程度
- 様々なIoTデバイスとの互換性が高い
注意点:
- 電子レンジや他のWi-Fi機器との電波干渉が発生しやすい
- 壁や床などの遮蔽物により通信エリアが大きく制限される
- 金属の壁は電波を反射し、通信エリアが著しく制限されます
- 混雑した環境では実効速度が低下する可能性がある
対策:
- アクセスポイントを適切に配置し、カバレッジを最適化
- チャンネル設定の最適化による干渉の軽減
- メッシュWi-Fiシステムの導入による広範囲なカバレッジの実現
5GHz帯Wi-Fi
5GHz帯Wi-Fiは、より高速な通信を実現する新しい規格です。
主な特徴:
- 無線免許不要で導入が容易
- 通信速度:300~4800Mbpsの超高速通信が可能
- 2.4GHz帯と比べて電波干渉を受けにくい
- より安定した通信品質を提供
制限事項:
- 到達範囲が2.4GHz帯より狭い(屋内で10~15メートル程度)
- 壁や床などの遮蔽物の影響をより強く受ける
- 金属の壁は電波を反射し、通信エリアが著しく制限されます
- 高速通信と到達距離はトレードオフの関係
活用のポイント:
- 高速通信が必要な場所に集中的に配置
- アクセスポイントの適切な配置計画が重要
- デュアルバンド対応機器による2.4GHz帯との併用
Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)および Wi-Fi 6E
比較的新しいWi-Fi規格として、Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eが注目されています。
主な特徴:
- 2.4GHz/5GHz帯両対応
- 理論値で最大9.6Gbpsの通信速度
- 多数のデバイス同時接続に強い
- 省電力性能が向上
- OFDMA技術による効率的な通信
拡張機能:
- 6GHz帯を使用
- さらなる高速通信が可能
- 混雑の少ない新しい周波数帯
- より安定した通信を実現
- 低遅延性能の向上
Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)
Wi-Fi 7は、次世代の最新Wi-Fi規格であり、6GHz帯を含む広帯域を活用し、さらに高速かつ低遅延な通信を可能にします。
主な特徴:
- 最大通信速度:約46Gbps(理論値)
- 2.4GHz / 5GHz / 6GHz帯をすべて活用可能
- 320MHz幅のチャネルをサポート(Wi-Fi 6の2倍)
- 4K-QAM変調による効率的なデータ伝送
- MLO(Multi-Link Operation)により複数バンドを同時利用して安定性・速度を両立
- 超低遅延(AR/VRやリアルタイム制御に有効)
期待される活用シーン:
- 8K動画配信やクラウドゲーミング
- AR/VR、メタバースなど高帯域・低遅延が必須のアプリケーション
- 産業用IoTや医療IoTなど、信頼性と安定性が求められる分野
2. プライベートLTE(sXGP)
sXGPは、自営のLTEネットワークを構築できるサービスです。
主な特徴:
- 1.9GHz帯を使用
- 無線免許不要で導入可能
- SIMカードによる確実な認証と通信
- 通信速度:下り約14Mbps
- 到達範囲:30~200メートルと広域をカバー
メリット:
- Wi-Fiと比べて安定した通信が可能
- 移動時でも途切れにくい
- セキュリティ性が高い
活用シーン:
- 工場や倉庫など広域での IoT機器の接続
- 安定した通信が必要な産業用途
- セキュリティ要件の高い現場での利用
3. プライベート5G
次世代の高速通信規格である5Gの自営ネットワークです。
主な特徴:
- 4.6-4.9GHz帯または28.2-29.1GHz帯を使用
- 免許不要で導入可能
- SIMカードによる認証
- 通信速度:最大20Gbpsの超高速通信
- 広い到達範囲と安定した通信品質
優位性:
- 超高速・大容量通信
- 超低遅延(1ミリ秒以下)
- 多数同時接続(1平方キロメートルあたり100万台)
想定される用途:
- スマートファクトリーでの製造ライン制御
- 自動運転システムの通信基盤
- 4K/8K映像の無線伝送
- AR/VRアプリケーション
コスト比較
各通信規格の導入・運用コストを比較します。技術の変化は激しく、コストは導入時期によって変動します。そのため、参考程度としてください。
Wi-Fi(従来規格)
初期費用:
- アクセスポイント:1台あたり2~10万円
- コントローラ:20~50万円(必要な場合)
- 工事費:1アクセスポイントあたり3~5万円
運用コスト:
- 電気代:1台あたり月額500~1,000円程度
- 保守費用:年間で初期費用の10~15%程度
Wi-Fi 6/6E
初期費用:
- アクセスポイント:1台あたり5~20万円
- コントローラ:30~80万円
- 工事費:1アクセスポイントあたり3~5万円
運用コスト:
- 電気代:1台あたり月額600~1,200円程度
- 保守費用:年間で初期費用の10~15%程度
プライベートLTE(sXGP)
初期費用:
- 基地局:100~300万円
- 端末:1台あたり2~5万円
- 工事費:50~100万円
運用コスト:
- 電気代:月額1~2万円程度
- 保守費用:年間で初期費用の15~20%程度
- ライセンス費用:年間10~30万円程度
プライベート5G
初期費用:
- 基地局:500~2,000万円
- 端末:1台あたり5~15万円
- 工事費:100~300万円
- システム構築費:1,000~3,000万円
運用コスト:
- 電気代:月額3~5万円程度
- 保守費用:年間で初期費用の15~20%程度
- ライセンス費用:年間50~100万円程度
まとめ
IoTシステムの通信規格選択では、以下の点を考慮することが重要です:
- 必要な通信速度
- 想定される利用環境
- デバイスの数と密度
- セキュリティ要件
- 初期投資と運用コスト
各通信規格には一長一短があり、用途や環境に応じて最適な選択が異なります。
特に、高速通信が必要なIoTシステムを考える場合、コスト面では初期投資額に大きな差があるため、長期的な運用を見据えた投資対効果の検討が重要です。
また、複数の規格を組み合わせることで、より柔軟で信頼性の高いネットワークを構築することも可能です。



