【自戒】AIに営業を丸投げしようとして気づいた「禁じ手」と、最終的に辿り着いた泥臭い生存戦略

みなさん、こんにちは。

医療分野でのスタートアップや小規模事業者にとって、専門家や研究者との「接点」は生命線です。新しい技術を評価してくれる協力者や、製品のフィードバックをくれる先生を見つけるために、私も常に奔走しています。

かつては、学会誌や論文データベースと睨めっこし、相性の良さそうな研究者を見つけ出しては、一人ひとりに手紙を書いたり、知人を介して紹介をお願いしたりしていました。基本は「対面」や「個別の丁寧な連絡」。これには膨大な時間とコストがかかります。

正直に告白します。スクレイピング技術や生成AIが進化する中で、私はある「強い誘惑」に駆られていました。

「ネット上に公開されている医師や研究者の情報をAIで自動収集し、研究内容に応じた提案を自動生成して一括で営業メールを送れば、一瞬で数百人の見込み協力者にアプローチができるのではないか?」

人力で何週間もかけていた作業が、AIなら数分で終わる。小規模企業にとって、これほど魅力的な効率化はありません。

実際、当サイトにも、明らかにその手法を使っていると思われるコメントへの自動書き込みが日に何件もあります。私も一度は反応してしまいました。
とりわけ、今年に入ってから急激に発展した生成AI技術を使えば、個別にカスタマイズしたメッセージを送ることは十分可能です。私はこの数ヶ月、真剣にこの手法の導入を検討し、どうすれば実行できるかシミュレーションまで行っていました。

しかし、実行に移す直前で私は立ち止まりました。そこには、効率化という甘い蜜の裏に、小規模企業にとって致命的となりうる「毒(リスク)」が潜んでいることに気づいたからです。

今回は、私が危うく手を出しそうになった「AIによる個人情報収集と活用」のリスクと、そこから立ち返って見直した「合法的かつ誠実な営業戦略」についてお話しします。

 


 

なぜ「公開情報」をAIで集めてはいけないのか

 

「ネットに公開されているメールアドレスなんだから、送ってもいいじゃないか」 そう思うかもしれません。私も最初はなんの疑問も抱かずそう思いました。しかし、法務や倫理の観点から深掘りすると、以下の3つの重大なリスクが浮かび上がってきました。

1. 法的リスク – それは「不適正利用」になる

たとえ公開されている所属情報やメールアドレスでも、それらを組み合わせて「個人を特定できるリスト(データベース)」を作成した時点で、個人情報保護法の規制対象になります。
本来、研究交流や患者さんからの問い合わせのために公開されている情報を、本人の同意なく勝手に収集し、営利目的の営業リストとして利用することは、同法が禁じる「不適正な利用」とみなされる可能性が極めて高いのです。

2. 倫理的リスク – 信頼の崩壊

研究者は、研究の発展のために連絡先を公開しています。そこにAIで自動生成された営業メールが大量に届けば、それは「スパム」以外の何物でもありません。「文面をAIで少し変える」などの小手先のテクニックを使っても、受け手には「機械的に処理された」という冷たさが伝わります。

3. 社会的リスク – 「スパム企業」のレッテル

一度「勝手に情報を収集してメールを送りつけてくる企業」あるいは「監視AIを使っている企業」というレッテルを貼られたら、その噂は狭い専門家コミュニティ内で一瞬で広がります。
小規模事業者にとって、ブランド価値の毀損は「死」を意味します。

 


 

最終的にたどり着いた、合法的で「濃い」営業戦略

 

AIによるショートカットが「禁じ手」だと気づいた私は、営業手法を根本から見直すことにしました。
魔法のような効率化はありませんが、以下の5つの方法は、法的にもクリーンであり、何より「相手からの信頼」という資産が確実に積み上がります。

1. 学会・イベントでの「リアル」なネットワーキング

出展やポスター発表だけでなく、懇親会やセッション後の立ち話こそが重要です。
名刺交換の際に「後日、詳細をご連絡してもよろしいですか?」と一言添えて了承を得る。このひと手間があるだけで、その後のメールは「スパム」ではなく「知人からの連絡」になります。

2. 公式の広報宣伝ツールの活用

「リストを作る」のではなく「手を挙げてもらう」アプローチです。
学会のスポンサー枠や、業界団体の公式メーリングリストを通じて協力者を募集します。公式な制度を通じた告知であれば、受け取る側も同意済みであるため安全かつ好意的です。

3. コンテンツマーケティング(待ちの営業)

こちらから押し掛けるのではなく、見つけてもらう努力です。
「医療IoTで○○の課題を解決する手法」といった、専門家が検索しそうな技術ブログや事例記事を発信します。検索経由でたどり着いてくれた方は、すでに高い関心を持っている「濃い」お客様です。

4. 研究者SNS・専門コミュニティでの交流

FacebookやX(旧Twitter)、LinkedInなどで、営業色を消して研究者としての目線で交流します。まずは「売る」ことより「知ってもらう」「議論する」ことから始めます。

5. 紹介ネットワーク(最強のチャネル)

結局、どの業界でもそうかもしれませんが、医療・研究分野でも最終的に強いのはこれでした。 既存の信頼できる先生に「先生のような、信頼できるお仲間を紹介していただけませんか?」と誠実にお願いする。泥臭いですが、成約率はAIメールの比ではありません。

 


 

まとめ – 信頼こそが最大の武器

 

AIによる個人情報収集と自動営業は、一見すると「魔法の杖」に見えます。しかし、それは法的なリスクだけでなく、長い時間をかけて築くべき「信頼」を一瞬で焼き払ってしまう危険な火種でした。

小規模事業者が取るべき道は、近道を探すことではありません。

「本人同意を得られるチャネルを通じて、誠実に接点を作る」

これに尽きます。

学会での対話、公式な広報、有益なコンテンツの発信、そして人からの紹介。これらを組み合わせれば、コストはかかりますが、確実にビジョンに共感してくれる「本当の協力者」と出会えるはずです。

小規模だからこそ、誠実さを武器にする。私はその方針で、この時代を生き残っていこうと決めました。これからもがんばります!

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは、よい事業開発を!

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