契約書があればよかった? フリーランスの経験から見える「もう一つの現実」

みなさん、こんにちは。

先日、X(旧Twitter)である投稿が話題になっていました。

開発したシステムを巡る、非常に心苦しい経験に関する内容です。ご本人は今後、外部アプリとしての公開も予定されているとのことで、その前向きな姿勢を心から応援したいと感じています。

この投稿に対しては多くの意見が寄せられていましたが、特に目立ったのは「契約書があれば事態は変わっていたのではないか」という声でした。ご本人もその点に触れておられましたが、この問題について、私なりの考えを整理してみたいと思います。

私はこれまでフリーランスとしても、フリーランスへ発注する企業側の担当者としても、多くの案件を経験してきました。契約書を交わした仕事もあれば、そうでない仕事もありました。その両方を経験したうえで、もし私が今回の学生さんの立場で「契約書が必要かどうか」を判断しなければならない場面に直面したとしたら……

私はあえて、「契約書を結ばない」という選択をするかもしれません。

なぜ、守ってくれるはずの契約書を避けるのか。今回のケースを例に、その理由をお話しします。

 


 

契約書は「守ってくれる盾」であると同時に「縛る鎖」でもある

 

一般的には「契約書がなかったのが落ち度だ」「契約書さえあれば勝てた」と語られがちです。しかし、現場で働くフリーランスの実感は、少し異なります。

契約書は確かに強力な武器になります。ですが同時に、個人と企業の双方に重いリスクを背負わせる文書でもあるのです。

個人(特に学生や初心者)にとってのリスク

契約書を作成する場合、通常は以下のような項目が含まれます。

  • 仕様通りに完成させられなかった場合の責任
  • 不具合(バグ)によって生じた損害の賠償
  • 納期が遅れた際の遅延損害金
  • 長期間の保守義務

学生や個人開発者にとって、これらはあまりに重い責任です。契約書を交わすということは、「できませんでした」という言葉が許されない、シビアな法的責任の世界に身を投じることを意味します。

企業にとってのリスク

企業側も、契約を結ぶことで相応の義務が発生します。

  • 発注者としての法的な支払い義務
  • 契約不履行時の対応コスト
  • 品質保証を求めるための追加予算の確保

企業にとっても、契約書を交わす判断は決して軽いものではありません。だからこそ、「学生相手だから、あえて契約書なしで進めてしまおう」という状況が構造的に起きやすくなってしまうのです。これは学生さんの落ち度というより、ビジネス業界が抱える一つの構造的な課題だと言えます。

 


 

契約書のリスクを理解したうえで、現実的にトラブルを避ける方法

 

では、契約書に頼らずに自分を守るにはどうすればいいのでしょうか。現実的な代替案をいくつか挙げます。

1. 契約書よりもまず「記録」を残すこと

正式な契約書がなくても、メールやチャットのログは立派な証拠になります。

  • 提示した金額
  • 作業の範囲(どこまでやるか)
  • お互いの合意内容

これらが文字として残っていれば、後から「言った・言わない」の不毛な争いを避けることができます。契約書ほど重くなく、個人にとっても企業にとっても柔軟で安全な守り方です。

2. 「依存度」が高まるまで辛抱強く待つ

今回のケースでは、現場の方は便利に使っていたものの、経営層は「それがなくても業務は回る」と判断した可能性があります。つまり、まだ「システムへの依存フェーズ」に到達していなかったと考えられます。

依存度が低い段階で強気な金額交渉をしても、企業側は強気に出られますし、個人側はどうしても立場が弱くなります。

  • まずは数ヶ月、アルバイトなどの形で深く関わる
  • 現場の運用にシステムが深く浸透するまで待つ
  • 経営層が「これがないと仕事にならない」と認識するまで待つ

この「待つ」という戦略は、交渉を対等に進めるために非常に重要です。

3. それができない相手なら、早めに手を引く

これは冷たく聞こえるかもしれませんが、最も現実的な自己防衛です。

  • 記録を残すことを嫌がる
  • 依存度が高いのに不当に値切ってくる
  • 誠実なコミュニケーションが取れない

こうした兆候が見えたら、その時点で身を引くのが最善です。契約書の有無にかかわらず、不誠実な相手とは必ずどこかでトラブルになります。

 


 

「訴えれば勝てる」という意見の現実

 

SNSでは「フリーランス保護法がある」「訴えれば勝てる」という励ましの声も多く見かけます。しかし、実務レベルでの実感はこうです。

  • 訴訟には膨大な時間が必要になる
  • 弁護士費用などのお金がかかる
  • 訴えた瞬間、その相手との関係は完全に破綻する
  • 勝訴したとしても、相手から確実に資金を回収できるとは限らない

つまり、多くの場合で「労力に見合わない」のが現実です。学生さんや個人開発者にとって、訴訟はあくまで「最後の最後の手段」であって、最初から頼りにすべきものではありません。仮に裁判に勝っても得られるのは「プライドと尊厳」だけかもしれません。

「割に合わないから諦める」という判断は、決して逃げではなく、極めて合理的な選択なのです。

 


 

大切なのは「距離感」と「記録」と「見極め」

 

今回の出来事は「契約書がなかったから」という一点に集約されがちですが、実際はもっと複雑な問題が絡み合っています。

  • 契約書は、個人にも企業にも重い責任を課すものである
  • チャットなどの記録を残すことで、最低限の安全性は確保できる
  • 依存度が高まるまで待つことで、対等な交渉が可能になる
  • 誠実でない相手とは、早めに距離を置くべきである
  • 訴訟はコストとリスクが非常に高い

これらは、学生さんやシステム開発に限らず、すべてのフリーランスに共通する「生き残るための知恵」です。

契約書は万能ではありません。むしろ、契約書に頼りすぎずともトラブルを回避する術を身につけることの方が大切です。

記録を残し、相手との依存度を見極め、誠実な相手とだけ仕事をする。

これが、フリーランスとして生きるうえで最も現実的で、傷つかずに済む方法だと私は信じています。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは、よいエンジニアライフを!

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