みなさん、こんにちは。
先日、FUKUOKA 事業開発カンファレンスというセミナーに参加しました。
対象は新規事業開発担当者でしたが、社内でのアイデア収集方法や外部企業とのオープンイノベーション、そして部署や上司、社長を説得して事業化に至るプロセスという大企業向けセッションでした。
大企業内で新規事業を担当する道は、豊富なリソースと安定した環境が整っているため、安心感があります。しかし、担当者として新規事業を成功に導くためには、単なる「義務感でのやらされ仕事」では到底成し遂げられません。事業への情熱こそが原動力です。
もし自分が本当に事業に情熱を持ち、心からそのビジョンを実現したいのであれば、同時に「スタートアップでの挑戦」や「起業」という他のパスも検討する価値があります。どれだけその事業を自分が進めたいかを確認するための有効な手段となるからです。
複数の選択肢を見極めることで、自分自身の情熱や覚悟の度合い、さらには必要なスキルやリスク許容度を客観的に理解できるようになるでしょう。そうすることで、場合によっては別のパスを選びたくなるかもしれません。
パスの比較がなければ、新規事業創出セミナーとしては不足だと感じたため、この記事でセミナーの補完を試みたいと思います。
では、さっそく各パスの特徴、どのようにして新規事業が生まれるか、そのプロセスと難易度を見ていきましょう。
1.大企業内で新規事業を担当する
特徴とプロセス
大企業では、専任のイノベーションチームやコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、社内イノベーションワークショップなど、体系化されたプロセスを通じて新規事業が進められます。
- 新規事業の生まれるプロセス
大企業では、従業員が日常業務の中で気付いた課題や改善案を社内提案制度で提出したり、定期的なアイディアソンやハッカソン、ワークショップを通じて新たな発想を引き出します。
新たな発想の段階でもっとも求められるのは、「当社がその事業をやる意味はあるのか」という問いに対する答えです。
提出されたアイデアは、段階的な評価(ステージゲート方式)を経て、プロトタイプの作成や市場調査、さらに上層部へのプレゼンテーションを通じて、事業化に向けた承認が行われます。
また、必要に応じて外部企業やスタートアップとの連携を図るオープンイノベーションも取り入れ、既存の資産と新たな知見を融合させることで、事業が誕生します。
メリット
- 豊富なリソース:内部資金、ブランド、既存の顧客基盤、技術インフラなどを活用できる。
- 安定性:給与や福利厚生が保証され、個人の経済的リスクが低い。
- キャリア形成:成功すれば社内での評価が上がり、昇進や重要ポジションへの抜擢が期待できる。
デメリット
- 意思決定の遅さ:官僚的な手続きや社内政治により、迅速な対応が難しい。
- 自由度の制約:企業ルールや既存の戦略に縛られ、独自のビジョンを実現するには工夫が必要。
- 評価の不透明さ:新規事業の成果が短期間では評価されにくく、失敗時の責任追及が曖昧になりがち。
2.スタートアップで新規事業に挑戦する
特徴と環境
スタートアップでは、少人数のチームでアジャイルに動くため、アイディアが迅速に形になる環境が整っています。
- 新規事業の生まれるプロセス
スタートアップでは、市場の隙間や顧客のニーズに敏感に反応し、創業メンバーや小規模なチームが自らアイデアを出し合います。
アイデアの段階でもっとも求められるのは、「この事業で世の中にどのくらいのインパクトが与えられるか」という問いに対する答えです。
プロトタイピングや実際の顧客からのフィードバックを基に、短期間で何度も試行錯誤(ピボット)を重ねながら、事業モデルを確立していきます。市場に対する実験的アプローチが特徴で、迅速な意思決定と柔軟な対応が、新たなビジネスチャンスを生み出す原動力となります。
メリット
- 迅速な意思決定:フラットな組織構造により、柔軟でスピーディな対応が可能。
- 直接的な影響力:個々の貢献が事業成長に直結し、成功すればストックオプションなど高い報酬が得られる。
- 多様な経験:幅広い業務に携わることで、実践的なスキルと経験が短期間で積める。
デメリット
- 不確実性:資金調達や事業の存続が不安定で、雇用リスクが高い。
- 厳しい労働環境:限られたリソースと短い納期のプレッシャーにさらされることが多い。
- キャリアリスク:スタートアップ特有の成功・失敗がその後のキャリアに大きな影響を与える可能性がある。
3.起業して新規事業を立ち上げる
特徴と挑戦
自ら会社を立ち上げる起業は、最も自由度が高い反面、全ての責任を自分で負う究極の挑戦です。
- 新規事業の生まれるプロセス
起業の場合、まず市場のギャップや自分自身の情熱に基づくアイディアを発掘し、徹底した市場調査を行います。そこから、最小限の機能(MVP:Minimum Viable Product)を持つプロダクトを開発し、実際の顧客に試してもらうことでフィードバックを収集します。
この時点ではチームとしての活動や相談相手がいないため、アイデアの段階で止めず、MVPを持つプロダクトをまずは作って試してもらう必要があります。
その後、反復的な改善プロセスを経て、事業モデルを確固たるものにしていきます。さらに、投資家との交渉やチームビルディングを通じて、事業のスケールアップを図ります。
メリット
- 完全な自由:自分のビジョンや理念を基に事業を展開できる。
- 大きな成功の可能性:事業が成功すれば、経済的独立や市場での大きなインパクトが期待できる。
- 急速な自己成長:経営全般に携わることで、幅広いビジネススキルが身につく。
デメリット
- 極めて高い経済的リスク:自己資金や外部調達に依存し、失敗時には大きなダメージを被る可能性がある。
- 精神的・肉体的負担:全ての意思決定を自ら行い、成功に向けた重圧が常に存在する。
- 高いハードル:多岐にわたるスキル(経営、財務、マーケティングなど)とリーダーシップ、リスク管理能力が要求される。
注意:私自身は、本当に心から好きな事業に対する情熱がなければ、起業はおすすめしません。起業は、情熱という原動力がなければ、厳しい現実の壁に直面し、再起が極めて困難になるリスクが高い道です。
4.3つのパスの難易度比較
以下の表は、各パスの主要な要素に基づく難易度比較です。
要素 | 大企業内新規事業 | スタートアップ挑戦 | 起業 |
---|---|---|---|
資金調達 | 内部資金が利用でき、調達のハードルは低い | 外部資金に依存し、不安定な面がある | 自己資金や借入、外部調達など多くの交渉が必要 |
経済的リスク | 個人のリスクは低く安定している | 企業全体のリスクや雇用の不安定性が伴う | 経済的・精神的リスクが極めて高い |
意思決定の自由度 | 企業ルールに縛られ自由度は低い | 中程度。柔軟性はあるが、組織の制約が存在する | 完全な自由があるが、全ての責任を自分で負う |
実行速度 | 体系化されたプロセスで計画的だが遅い | 迅速な意思決定が可能だが、環境が厳しい | 自分次第で速く動けるが、準備・運営に多大な労力が必要 |
必要なスキル | 社内調整力、企画力、プレゼン能力が重要 | 実行力、柔軟性、マルチタスク能力が求められる | 幅広いビジネススキル、リーダーシップ、リスク管理能力が必須 |
成果・報酬 | 安定した給与とキャリアアップの機会がある | 成功すれば高い報酬(ストックオプションなど)が期待できる | 成功すれば経済的独立や大きな市場影響力が得られる |
5.なぜ複数のパスを検討するべきか
新規事業創出セミナーでは大企業内のプロセスに焦点が当てられていましたが、実際には事業に対する情熱や覚悟を試すための選択肢はこれだけではありません。
- 自己評価の材料:複数のパスを検討することで、自分がどれだけ事業にコミットできるか、またどの環境で最大のパフォーマンスを発揮できるかを客観的に見極めることができます。
- リスクとリターンのバランス:大企業内は安定しているものの自由度が制限され、スタートアップは迅速な実行力が求められる一方、起業は究極の自由とリスクが伴います。
- キャリアの選択肢拡大:最終的なキャリア形成の上でも、どのパスで経験を積むかがあなたの将来に大きな影響を与えます。
結論:自分に合った道を慎重に選ぶために
大企業内で新規事業を担当するという選択肢は、豊富なリソースと安定した環境を背景に、比較的リスクが低い道です。
しかし、事業を本当に成功に導くためには、自身の情熱と覚悟が不可欠です。もし、自分が心からその事業に打ち込み、挑戦する覚悟があるならば、スタートアップでの挑戦や起業という選択肢も検討する価値があります。
ただし、簡単にスタートアップへの挑戦や起業することを選ぶのは望ましくありません。特に起業は、情熱が伴わなければ、経済的にも精神的にも極めて高いリスクを伴うため、よほど「本当に好きな事業」でなければおすすめできません。
いずれのパスを選ぶにしても、複数の選択肢を客観的に比較し、自分自身のリスク許容度や必要なスキル、そして何よりも事業に対する情熱を十分に確認することが、最終的な成功への第一歩となると思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
自分に最適なパスを見極めるための参考材料として、この記事がみなさんの判断に役立つことを願っています。
新規事業の世界は厳しいですが、情熱と覚悟があれば、どの道でも大きな成果を生み出す可能性が広がるはずです。
それでは、よい新規事業開発を!