DX展示会で感じた違和感 ー なぜAIとDXは効率化ばかり語るのか

みなさん、こんにちは。

先日、「製造イノベーションDXPO福岡’26」に行ってきました。(ちなみに同じ会場では「バックオフィスDXPO」や「AIエージェントDXPO」も同時に開催されていました)

私はいつも技術展示会に足を運ぶとき、単に最新の製品を見るためだけではなく、「これから世の中がどこへ向かおうとしているのか」という時代の空気感を観察するようにしています。

ところが今回の展示会では、なんだか不思議な感覚に包まれました。

どのブースに立ち寄っても、聞こえてくるフレーズが驚くほど似通っていたんですよね。

  • AI議事録作成
  • AI問い合わせ対応
  • AIデータ入力
  • AI帳票処理
  • AIによる営業支援

扱っている技術や製品のパッケージは違うはずなのに、最終的な提案メッセージはどれも同じでした。

「業務を効率化できます」 「人手不足を解消できます」 「工数を削減できます」

もちろん、どれもビジネスにおいて重要で切実な提案です。しかし、会場を歩き続ける間、ずっとこんなことを思っていました。

「なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)の話をしているはずなのに、誰も『未来』の話をしないんだろう?」


会場の主役は「製造」ではなく「バックオフィス」だった

今回の展示会で特に印象的だったのは、製造DXPOに比べて同時開催のバックオフィスDXPOの規模が圧倒的に大きかったことです。

製造系の出展ブースは比較的コンパクトで、会場全体を熱気で包んでいたのは、次のようなバックオフィス向けソリューションでした。

  • 経理DX / 人事DX
  • ワークフローDX
  • CRM / SFA
  • 文書管理

だからこそ、「効率化」が目立っていたのかもしれません。

企業にとって業務効率化が大切なのは間違いありません。しかし、展示会全体がまるっと同じ方向だけを向いている光景は、技術の先進性を競う場というよりも、「誰が一番効率化できるかコンテスト」を見ているかのようでした。


なぜ次世代エネルギー展はあんなに面白かったのか?

ここで、少し前に訪れた「次世代エネルギー関連」の展示会のことを思い出しました。そこでの体験は、今回とは全く異なるものだったんです。

エネルギー展では、以下のようなテーマが次々と登場していました。

  • スマートグリッド
  • VPP(仮想発電所)
  • 蓄電池制御
  • EV連携
  • 地域エネルギーマネジメント

そこで語られていたのは、「作業を何分短縮できるか」といった縮小均衡の話ではなく、「社会の仕組みをどう変えていくか」というトランスフォーメーション(変革)そのものでした。

  • 地域単位でエネルギーを融通し合う社会
  • 住宅の一軒一軒が小さな発電所になる社会
  • 街を走るEVがそのまま巨大な蓄電池として機能する社会

そこにはワクワクするような「未来の姿」が見えていたんです。人はやっぱり、ワクワクする未来の話に熱狂しますよね。だからこそ、あの会場には独特の熱気がありました。

一方で、今回のDXPOで語られていたのは、未来ではなく「現在の延長線上にある省力化」でした。会場を包む空気の違いは、まさにここから来ていたのだと感じます。


IT企業は本当に「価値創出」を考えていないのか?

会場にいるときは「IT業界は守りの話ばかりで、価値創出を諦めてしまったのかな……」と一瞬思いました。

ですが、帰りの道すがら、落ち着いて考えてみると、問題はもっと複雑であることに気づきました。

IT企業に新しいものを生み出す創造性がないわけではありません。むしろ多くの開発者やベンダーは、「AIを使って今までにない新しい価値を創出したい!」と熱望しているはずです。

しかし、「市場(買い手)」の構造上、新しい価値創出の提案は非常に評価されにくいという現実があります。

  • 「AI導入で年間3,000時間を削減!」 ⇒ 投資対効果(ROI)が明確で、稟議が通りやすい。
  • 「AIを使って未知の市場を発見する!」 ⇒ 成果が不確定で評価が難しく、失敗したときの責任も重い。

結果として企業側も、最も説明しやすく、最も社内承認が得られやすい「効率化」へと提案を絞り込んでいくことになります。

つまり、DXが効率化ばかりに偏ってしまうのは、売り手側の問題というよりも市場全体の力学(予算設定や評価基準の仕組み)そのものが原因なのかもしれません。そしてそれは、バブル経済後の失われた30年間の大きな要因の一つだったのではないかとさえ思えます。


効率化は「目的」ではなく「準備」

AIに関する最近の議論を見ていると、ときどき「目的と手段」が入れ替わっているなと感じることがあります。

  • 作業時間を半分にできた
  • 手入力の業務をゼロにできた
  • 問い合わせ対応を全自動化できた

これらはもちろん素晴らしい成果ですし、業務の現場においては価値あるステップです。

しかし、本当に重要なのは「その先」ですよね。

  • 空いた時間で、どのような新しい挑戦をするのか?
  • 削減した工数を使って、どんな新しい価値を生み出すのか?

効率化それ自体は「価値」ではなく、「真の価値を生み出すための準備(下地づくり)」に過ぎません。今のDX議論の多くは、この準備運動の段階でゴールしてしまっている気がしてならないのです。図らずも、この問題提起はデブサミの振り返り記事でもしていました。


私が感じた違和感の正体

今回、展示会場で感じた違和感の正体は、AIという技術そのものへの失望ではありませんでした。私自身、AIが持つ計り知れない可能性には今でも強く期待しています。

違和感の正体はただひとつ。

「未来の姿を見に展示会へ来たはずなのに、みんな『現在の手作業をいかに減らすか』という話しかしていない」

というギャップでした。

効率化のその先に何があるのか? AIによってどんな新しい製品やサービスが生まれるのか? 私たちはどんな社会を実現したいのか?

そうした本質的な問いかけが、会場のどこからも聞こえてこなかったのです。

だからこそ私は途中から展示製品を眺めるのをやめ、「なぜ私たちの市場はここまで効率化ばかりを求めるのだろう?」という問いを深めながら会場を歩いていました。

今回の展示会で得た一番の収穫は、ブースで配られていたたくさんのパンフレットではなく、この「問い」そのものだった気がします。


ワクワクする未来を描くために

人手不足が急速に進む日本において、業務の効率化や省力化は避けて通れない重要課題です。効率化を軽視するつもりは毛頭ありません。

しかし、効率化「だけ」ではワクワクする未来を描くことはできません。

  • 工数削減の先にある「新しい価値の創出」
  • 業務改善の先にある「社会の変革」

本来、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、そうした未来を切り拓くための言葉だったはずです。

展示会が終わってから数日考えましたが、私が改めて自分自身に投げかけているのは、

「AIで何時間削れるか?」ではなく、「生まれたその時間で、私たちは何を作っていくのか?」

という問いです。

AIによる脆弱性攻撃が危険だと恐怖する前に、まずは、AIで何を作っていくのか、それを考えたいですね。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、よいDXライフを!

カテゴリ: 事業開発
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